パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS1『BS世界のドキュメンタリー』「アパルトヘイトと闘った街〜マンデラへの賛歌(Sophiatown: Blues for Mandela)」

2004/7/4放送、50分、制作:リトルバード・プロダクション(英・2003年)、プロデューサー・構成:パスカル・ランシュ(Pascale Lamche)
制作会社のサイト(http://www.littlebird.ie/)から推測するに、約80分で制作した作品をデンマークのテレビ局(TV2)が買って放送用に約50分に縮め、それを更にNHKが又買いしたようだ。なので、これは不完全版。
要するに日本でいえば、70歳くらいの新宿の名物ママが、敗戦直後〜安保闘争辺りを振り返って「あの頃は猥雑だったけど、面白い時代だったわ」みたいな話を、文壇の誰それのエピソードを交えつつ、貴重な資料映像を交えつつ、収録したと置き換えられそう。
ただでさえ、当時の資料映像と今も生存している人の証言映像が交互に挟まれ、焦点が定まっていない上に、ソフィアタウンという「街」を主役にしたいはずなのに、証言する人々のエピソードそのものが前面に出過ぎて、散漫な印象しか残らないのが残念。多分、制作者の「アパルトヘイトに対抗した崇高な戦いの現場を再構成してやるぞ!」という意識が端々から感じられるのが原因だろうけど、多分そういった人道的意義を抜かしても、純粋に面白い街だった事を強調した方が良かった。社会派ドキュメンタリーを撮る良心的な欧州人が陥りやすいワナか。
作品内でインタビューに答えていたユルゲン・シャーデベルク(写真家)とレズリー・シフメ(ジャーナリスト)、興味深いシーン(時代)に、恐らく当事者(であるが、ある意味傍観者)として立ち会ったと推測される2人のどちらかを語り部(狂言回し)にして視点を固定した方が、「街の物語」として楽しめたと思う。「自由な気風に惹き付けられて芸術家が集まり、それを仕切っている裏の顔役がいて、日常では突っ張っている愚連隊の若者も一方では街の自警団みたいな役割を担っている。弁護士をやっているマンデラも堅物ではなく、夜の街を楽しんだりしていた」……全ての証言が、そういった「街の仕組み」を説明するもので、尚かつ上記の傍観者2人が、証言に対して「彼らの街での役割は○○だったのだよ」と、少し客観的な注釈を加える形式の方が良かった。
中高生の頃にマンデラウィニーの伝記を読んだが、田舎の狭い世界に住んでいるガキには単線の歴史事項しか目に映らなかったわけで、街の雰囲気とか人の集まる場なんかがある種の力を持っている、という事を知った今読み直したら、読んで頭に残る箇所も違うと思う。
作品内の資料映像に、テロップで「映画『ジレンマ』(1960年)」「映画『ジム・カムズ・トゥ・ジョーバーグ』(1949年)」と表示されるのだが、制作者にはせっかく貴重な映画を発見したのならば、細切りにして自分のドキュメンタリーに使うよりもそのまま復刻して見せてくれよと言いたくなる。
それに関連するかどうか、検索して発見した本作品に関する以下の方の感想、

レアな映像はふんだんにあったのですが、 演奏が細切れで一曲ちゃんとかける、というようなものが無かったのが残念でした。
http://www.kt.rim.or.jp/~tfj/talk/index.html#A876

というのが、wad's氏が『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』に対して書いた事とよく似ている。

この映画ではそれらの素晴らしい演奏をまともに聴かせてくれず、途中でぶったぎってインタビューのショットにつなげるか、コンサートで同じ曲を演奏しているシーンにオーバーラップさせるのである。
http://www.ywad.com/movies/408.html

もちろん、これは音楽ドキュメンタリーではなく、社会風俗ドキュメンタリーだろうから仕方ない事とはいえ、折角の貴重な名演奏を、時代を語るためのダシとしてしか扱えない制作者への憤りは理解出来る。