パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

『証言記録 兵士たちの戦争』サードシーズン

基本BS-hiの初回放送を見た。そこで逃した回は、2009/8/4〜9にNHK総合で再放送したものを見た。証言者名については、検索して関連事項が引っ掛かる名前のみ残した。

ビルマ 濁流に散った敵中突破作戦〜徳島県・歩兵第143連隊」
2008/10/26初回放送(2009/8/4放送で見る)、45分、撮影:下条拓也、ディレクター:小林倫太郎、制作統括:田中敦晴、制作・著作:NHK徳島
証言者:日根高雄、新居太一、勝浦守、岸田弘、高井利亮、藤井英志、中西一二三 ほか
軍医殿が「飯盒炊爨」と言っているのに、字幕が「はんごう炊飯」とは教養がない。

従軍看護婦が見た戦争」
2008/11/15初回放送(2009/8/9放送で見る)、45分、撮影:伊藤武史、ディレクター:白数直美、制作統括:中原常雄、制作・著作:NHK岡山
証言者:石田寿美恵、奥村モト子、村山三千子、武山敏枝、三村寿美江、道北澄子

「中国雲南 玉砕・来なかった援軍〜福岡県・陸軍第56師団」
2008/12/22初回放送、45分、撮影:小西優一郎、リサーチャー:岩本善政、ディレクター:高岡亨樹、プロデューサー:長友洋、制作統括:坂上達夫/牧野望、制作:NHKプラネット九州、制作協力:VSQ、制作・著作:NHK
証言者:藤井大典、末吉政徳、早見正則、太田毅、江副高明、関昇二、木下昌巳、小林憲一 ほか
放送前の仮タイトルは「中国・雲南 玉砕の戦さ場(いくさば)〜福岡県久留米第56師団「龍」」。本部は久留米だけど兵士は他の地域からも集めたから正式タイトルを変えたのだろうが、それだと今度は佐賀県から召集された人達が含まれないことになってしまうし、タイトル1つ考えるのも大変。
高岡氏は地元のドキュメンタリー作家らしい。

「フィリピン・シブヤン海 戦艦武蔵の最期〜横須賀海兵団」
2009/1/25初回放送、45分、取材協力:太田出版/手塚正己/都竹卓郎、撮影:大原勢司、ディレクター:佐々木伸之、プロデューサー:田嶋敦、制作統括:藤田英世/高瀬雅之、制作:NHKエデュケーショナル、制作協力:東京ビデオセンター、制作・著作:NHK
証言者:大塚健次、菅野等、依田功、塚田義明、遠藤義正、千木良礼一 ほか
船上で死んだ兵士のために「水葬は可哀想だから」と焼き用の釜を作ったエピソード。こういう体験した当事者でなければ出てこないディテールを放送してほしい。

「人間魚雷 悲劇の作戦〜回天特別攻撃隊
2009/2/22初回放送、45分、取材協力:全国回天会/伊呂波会、撮影:井上彰、ディレクター:西村武五郎、制作統括:吉本知裕、制作:NHK山口、制作・著作:NHK
証言者:河崎春美、岡田純、竹林博、山田譲、坂本雅俊、塚本悠策、梶原貞信、池田勝武 ほか
仮タイトルは「人間魚雷“回天”突入ス」。
F1のコックピット並みかと想像していたが、意外とでかい。過って相手の船底に潜望鏡があたると折れて穴が空いて沈没するという話のリアリティが良い。
証言者を取材するために、個々人が自ら手を上げてくれると有り難いだろうが、実際には戦友会みたいな団体を通して紹介してもらう形になり、そうなると、個人の記憶というよりは年1回集まって語る思い出話の中で形成された集団記憶の語り口になってしまう恐れはあるだろうし、難しいところ。

NHKの番組「兵士たちの戦争」で海軍の特攻兵器「回天」の元乗組員に取材したディレクターの西村武五郎氏(27)は「恋や友情など特攻とは直接関係ない話も聞いて、当時の普通の青年の話として特攻の問題を考えられた。自分もその場にいたら、同じような道をたどったかもしれないという想像力が働くようになった」と振り返る。
「従軍証言を社会共有財産に」http://www.sam.hi-ho.ne.jp/s_suzuki/html8/plaza0906.html

この記事は面白かった。

「東部ニューギニア 絶望の密林戦〜宇都宮・歩兵第239連隊」
2009/3/18初回放送、45分、撮影:後藤一平、取材:太田宏一/山中一毅、ディレクター:小柳ちひろ、制作統括:近藤忠人/鳥本秀昭/矢島良彰、制作:NHKエンタープライズ、制作・著作:NHK/テムジン
証言者:山川勝雄、神谷克己、星野一雄、堀江正夫、小川幸四郎、吉澤健四郎、小林久光、荒畑忠三、篠木進、浅見栄一、五味健彦 ほか
放送前の仮タイトルは「東部ニューギニア 投降を決意した兵士たち〜栃木県・宇都宮 第239連隊」。
無駄な戦いと当事者だって分かっているけど、自分だけ投降した奴は仲間から嫌われるという事実。この「それはそれ、これはこれ」という考え方が、反戦の人達にはなかなか伝わりにくいのではないかと思う。
シリーズの他作品が地方局の手作りなのに、何故かこれは豪華な制作陣。証言者の数もダントツで多かった(他は7〜11人なのに、これは大体17人)。

「重爆撃機 攻撃ハ特攻トス〜陸軍飛行第62戦隊」
2009/4/25初回放送、45分、撮影:渡瀬竜介、ディレクター:吉崎健、制作統括:嶺野晴彦/岩下宏之、制作:NHKプラネット九州、制作・著作:NHK福岡
証言者:前村弘、加藤善道、平井武夫、花道柳太郎、佐野仁、山下昭 ほか
「かけがえのない若者の命」「無駄な作戦」みたいな価値観を含む用語を、当事者の証言ではなくナレーションで語っちゃうのは、制作者として能力が足りないと言わざるを得ない。当事者の淡々とした回想の中から、見ている人間が「うわー、何て無駄な作戦で尊い命が奪われたんだ!」と思わせるように作らなきゃ。

「中国戦線 大陸縦断 悲劇の反転作戦〜福島県・歩兵第六十五連隊」
2009/5/30初回放送、45分、撮影:黒丸康志、ディレクター:石川慶、制作統括:千野博彦、制作・著作:NHK福島
証言者:八巻一夫、大谷一枝、小泉保清、油井淳一郎 ほか
放送前の仮タイトルは「中国戦線 最奥から決死の反転〜福島県会津若松歩兵65連隊」。
徴発(泥棒)したエピソードを証言するところだけ字幕無し。その演出意図は「画面を読まずに口元を聞け」だろうか。他にも行軍とか自決とか同じエピソードを複数の証言で繋ぐセンス。まあ、タイトル文字が縦書きで漢数字とかはやり過ぎだと思ったけど、所々に制作者がオリジナリティを発揮しようと試みている所は嫌いじゃない。「石川、お前見所あるよ」と上から目線で検索したら、NHKの人じゃなくてフリーの映像作家みたいだ。
県民性・地域性の話は眉唾になってしまうが、九州男の証言は平気で無能な上官や上層部の悪口を言うけど、東北男は「つらかった…、でも…、それが役目だったから…」という感じで内に溜め込んでいる印象を持った。

「戦場の少年兵たち〜沖縄県鉄血勤皇隊
2009/6/27初回放送、45分、取材協力:大田昌秀、撮影:森信幸、ディレクター:片山厚志、制作統括:宮本英樹、制作・著作:NHK沖縄
証言者:比嘉重智、石川栄喜摩文仁朝彦、神谷依信、山田義邦、比嘉森正 ほか
放送前の仮タイトルは「戦場を駆けた少年兵たち〜沖縄県 鉄血勤皇隊」。ややロマンティック過ぎたか。
「900人中400人死亡」が多いのか少ないのか。何度も書いているが、戦死率とか戦争関連のリテラシーを持ってない現代人に、比較する基準も示さないまま数字だけ出して凄そうに思わせるのは止めた方がよい。
現在の年齢ではなく、当時の年齢を字幕で出してきた。少年兵の物語だからだろうけど、こっちの方が証言を飲み込むのに分かりやすい。もちろん、今回のテーマが3カ月という限定された期間のエピソードだから当時年齢もありだったのだろう。

インパール作戦 補給なき戦いに散った若者たち〜京都 陸軍第15師団」
2009/7/25初回放送、45分、取材協力:一ノ瀬俊也、撮影:近藤俊介、ディレクター:西山幸生、制作統括:篠田恵一、制作・著作:NHK京都
証言者:辻勉、原田重穂、相澤末蔵、毛受三郎 ほか
放送前の仮タイトルは「インパール 戦略なき大作戦〜京都 祭・第15師団」。
証言の「(金玉の下から)何かで突き上げられたように恐くなって」の、(カッコ)内だけ字幕で出さなかったのは少しへたれ。

ETV特集』「吉本隆明語る」について、放送評論家の鈴木典之氏が言っている言葉が良かったので引用する。

たとえ、その著書の内容が理解ができなくても、吉本隆明さんという偉大な知の巨人がいるということはみんなが知っているわけです。そういう状況において「生の吉本さん」の存在感をあの番組はまことに的確に表現していたと思います。それは、あの番組のプロデューサーやディレクターの手柄だと思います。だいいち、あれを理詰めにやったとしたら、活字の分野と変わらなくなるでしょう? おごそかに構成しすぎたとすると、今度は演劇や映画の世界になっちゃう。テレビの特性から離れていっちゃうんです。それよりも、あれでもって吉本ファンがどれほど増えただろうか、ということのほうが重要であるとも言えるのではないでしょうか。
ほぼ日刊イトイ新聞(元ネタは「GALAC」2009年5月号)
http://www.1101.com/yoshimototakaaki/people/2009-07-27.html

こういう戦争関係のドキュメンタリーの評に自分が内容について書かなくなったのは、もちろん知識不足や価値観表明からの逃げもあるけど、テレビ媒体での映像表現について評するなら、内容はあまり関係ないからというのもある。ぶっちゃけ、戦争証言シリーズの証言内容はおそらく正確性に欠けるし、まとまっていて内容も充実した証言が知りたいなら、ちゃんとした書籍を読むべきだろうと思う。故にテレビ映像がすべき仕事は、さっきまで「飢えに苦しんでその辺の雑草を“ジャングルそば”って名付けて食ったんだわwww」なんて辛かった体験を面白おかしく滑らない話に転化していた爺さんが、次の瞬間には当時の場面や死んでいった戦友の姿がフラッシュバックしたのか、涙をこらえて声も出ない。そういう感情の揺れ、表情を映像に撮って残すことだろう。