2007/1/13初回放送、90分、考証資料:大森洋平、撮影:エフゲニー・コクーセフ/イクバル・アフマド、ディレクター:馬場朝子、制作統括:塩田純、制作・著作:NHK
第一部「侵攻はこうして決定された」・第二部「撤退への長き道のり」で構成され、第一部は、昨年9月にBS1放送された『BSドキュメンタリー』〈証言でつづる現代史〉「アフガン侵攻はこうして決定された」(→http://d.hatena.ne.jp/palop/20061215)とほぼ同じ内容。その時に書いた(1)カルマルを小物扱いしているのはどうか、(2)ソ連に殺された独裁者の未亡人が涙ながらに平和を語るのは欺瞞と印象操作に映る、の2点が今回はクリアされていたので嬉しい。(2)のシーンはカットされて当時のムジャヒディンリーダーの証言に差し替えられ、(1)のシーンの後には、
カルマルは人民民主党設立の主要メンバーでしたが、アミンと対立し国外に亡命していたのです。
というナレーションが追加された。むしろ自分が『BSドキュメンタリー』時に書いた「(カルマルは)権力闘争に敗れて僻地に左遷されていた」というのこそ多分間違いで申し訳ない。それはともかく、ブログを通じて制作者に意図が通じたと思えるのは、妄想に過ぎなくとも素直に嬉しい。
…
上記の『BSドキュメンタリー』を見た後、アフガン侵攻について書かれた書籍はないかネットで検索し、以下の2冊を発見。
アフガン戦争の真実―米ソ冷戦下の小国の悲劇 (NHKブックス)
- 作者: 金成浩
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2002/07
- メディア: 単行本
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- 作者: 李雄賢
- 出版社/メーカー: 信山社
- 発売日: 2002/05
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この番組のもとになったのは、以下の書籍「アフガン戦争の真実―米ソ冷戦下の小国の悲劇」(金 成浩 著,) です。
とはっきり書いてあるくらいだから、番組の企画段階でスタッフには「この本を元に史料や映像を集めていきましょう」という話はあったのだろう。
先に挙げた2書籍の出版はともに2002年だが、元となった論文は1996〜98年頃のもので、ロシアの公文書館にあるソ連共産党中央委員会議事録等を利用して書かれたもの。『アフガン戦争の真実』の一部である「ブレジネフ政治局と政治局小委員会-対アフガンと対ポーランド外交政策決定構造の比較」は、ウェブ上(http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/publictn/45/kim/kim.html)でも読むことが出来る。それらを踏まえつつ今回の番組ナレーションに耳を澄ますと、はっきり「今回初めて公開された」と言っているのは、79年3月18日にタラキがコスイギンに救援を求めた電話記録と、79年7月3日にカーター大統領が出した命令書の2箇所。両方とも『アフガン戦争の真実』の中で言及されている史料だが、前者は政治局会議議事録にあるコスイギン報告から、後者は米国の国家安全保障会議スタッフやブレジンスキーの証言から存在が知られていたものの、現物は確認されていなかった。つまり、侵攻へ至るストーリーは約10年前にはほぼ明らかになっていたが、今回はその史料を探し、証言を集めて裏付けたといえる。
もちろん、番組の構成自体は借り物でも、現物を探してカメラに撮したり、旧アフガン政権の人物や元CIAの担当者にインタビューしてコメントを取るといった貴重な作業をしたことは制作者として充分誇るべきで、何ら恥じることなどない。だからこそ(名もない市井の人に焦点をあてた人間ドキュメンタリー、同時代に起きた事件を追った報道ドキュメンタリーと違い)、過去の著名な事件を史料映像と証言で構成するドキュメンタリーを制作する場合、元ネタになった著作があるのならば、先行研究に対して敬意を払う上でもエンドクレジットや公式サイトに「参考文献」として明示するルールを作るべきではないか。未公開の史料から新説を唱えるのと既説を初公開史料で裏付けるのは違うのではないか。また、番組サイトに〈更に理解を深めるために〉と題して参考文献が掲載されていれば、視聴者にも親切だろうと思うし、それほど過剰な要求を書いているつもりはないのだがどうだろう。