パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

『NHKスペシャル』「イラク復興〜国連の苦闘」

2004/4/18放送、60分、キャスター:藤澤秀敏、取材:高橋弘行/萬木洋/磯辺登紀朗、構成:東大作、制作統括:吉開真一郎/千本信昭/山内聡彦
NHKサイトには

国連職員の犠牲からアメリカへの挑戦を始めたアナン事務総長の心の葛藤や、イラクでの選挙を担当するブラヒミ特別顧問の活動を、NHKが3か月にわたって密着取材を敢行。

とあるのだが、3カ月がいつからいつなのかよく分からなかった。見始めた時は、デメロ氏が爆死した2003年8月から11月まで密着取材しながら放送するタイミングを計り、自衛隊派遣というニュースに満を持して「たとえ善意があっても米国に協力すると、イラク人から一緒くたに狙われますよ」というメッセージを発信する作戦かと思ったが、最後まで見ると、3カ月とはどうやら2004年1月19日の3者会談から今日までの事のようだ。その間、主要キャストに単独インタビューも敢行し、昨年8月以降の事を回想してもらったと。では2003年中の画は資料映像の使い回しか。
それにしても、デメロ氏爆死事件が起きた当時は「英米のイラク侵攻にはいろいろ思うところもあるけれど、テロ自体は卑劣で非難すべき」というニュアンスで語られていた記憶があるが、今回の番組ではいつの間にか「これは英米への抵抗運動の端緒であり、英米の侵攻がなかったらテロもなかったのに」というニュアンスにすり替わっていたような気がする。この8カ月ほどの占領統治時期(成功or失敗)を無視し、先頃起きた誘拐事件の文脈で1年前の歴史を照射するのは無理がある。
構成の東大作氏は、これまでに『Nスペ』で放送した内容を元に『我々はなぜ戦争をしたのか 米国・ベトナム 敵との対話』(岩波書店、2000年)という本を出している。太田昌国氏の評(http://www.jca.apc.org/gendai/20-21/2000/tazan.html)を読めば、ドキュメンタリーの大まかな内容はつかめるし、今回のドキュメンタリーとの繋がりも感じる。まあ『Nスペ』の文字起こしなのに岩波から出版されているところに、妙な事情を穿ってみたくならないこともない。
1999年にNATO国連を無視してベオグラードの民間施設を空爆した時は何もしなかったアナン氏が、今回こんなにヒートアップしたのは古い友人であるデメロが殺されたから、と疑えない事もない。適当に検索してみた結果、デメロ氏は1983年から91年までジュネーブUNHCRで働いており、アナン氏も87年にニューヨークの国連本部勤務になる前は、80年代を通じてUNHCRで働いている。もちろんお互い偉くなった90年代にも「派遣する人=される人」として頻繁に言葉を交わす機会はあったろうけど、80年代は直属の上司と部下という感じで汗を流した仲だろうと想像してみる。おそらくパレスティナ辺りの現場で撮ったツーショットなんかもあるだろうが、それを放送でみせると「ああ、私怨か」と思われるのでカット。もちろん番組では「アナン氏が国連職員撤退を決定したのは、あくまでも現場にいたローン氏からの報告に基づくものである」と予防線を張っている。
自衛隊の問題なんかは日本人が自分自身の問題として感情的な意見がどんどん飛び交うべきだと思うけど、アメリカとか国連とか国際法とかの話をするなら、もう少し歴史に敬意を払うべきだろうと思う。99年には「人道」やら「予防」やらでフランスもドイツもガシガシ先制攻撃してたんだから。アメリカの大統領は民主党だったんだから。ドイツなんか社民と緑の党連立政権だったけど「ナチスドイツの復活!」って言ってやった奴いるか。そういえば95年にNATO国連の決議に基づいて新ユーゴへの空爆を決めた時、新ユーゴの重要施設の柱に国連職員を手錠でくくりつけていた。当時は「ミロシェヴィッチキチガイ」扱いだったけど、今だったら「アメリカ帝国主義に対抗するグッジョブ!」で英雄扱いかな。ああ、暴れるのが10年早かったよ、スロボダン。