パロップのブログ

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BS1『ワールド・ドキュメンタリー』「アメリカ麻薬戦争・政府対麻薬組織/むしばまれる国家の苦悩」

2001/2/3,4放送、米WGBH、2000年
NHKでは90分×2回で放送されたが、アメリカでは45分×4回シリーズではなかったかと推測される。ただの事件報道ではなく、今だからこそ分かる背景と結果が描かれたアメリカン・ヒストリーとしてかなり面白かったので、流れに沿ってメモ、以下に、麻薬の需要、供給、政府の対策、私のコメント、を羅列してみる。『マイアミ・バイス』ファンは必見で、何故、捕まえても捕まえてもいたちごっこだったのかがよく分かる。

  • 60年代後半

需要:ハーレムの黒人貧困層でヘロイン蔓延
供給:少量だから組織不明
対策:ワシントンの犯罪増加はヘロイン欲しさの為→貧乏人は死ね
コメント:ヘロインが広まったのは政府が黒人の公民権運動を潰すためにハーレムにばらまいた、とブラックパンサーは言っているが真相は不明

  • 70年代前半

需要:ヒッピーのLSDマリファナベトナム帰還兵の間でヘロイン中毒多発
対策:兵士の家庭である中産階級が支持層のニクソン大統領、票獲得のため中毒者治療センター設立→メタドンを処方→結局メタドン中毒になるだけ、麻薬取締局(DEA)設立→取締のやり過ぎ批判、72年にはトルコ及びメキシコとケシの栽培禁止で合意

  • 70年代後半

需要:マリファナ大流行
供給:メキシコの山奥から飛行機で大量に南カリフォルニアへ流れ込む、76年の大統領選挙ではカーター候補がマリファナ解禁を公約、コロンビアからコカインがアメリカデビューを果たす、1kg4〜5千ドルの仕入れ値で6万ドルで捌く、1回の飛行で2000万ドルの利益
対策:ニクソン退陣後、麻薬は政治から忘れられ、70年代末には治療センターに予算がつかず閉鎖、DEAはヘロインを重視していたためコカインは野放しに、メディジン・カルテルが勢力を伸ばし始める、バハマのノーマンズ・キー島をアメリカ上陸の拠点にするため首相ピンドリングを抱き込む

  • 80年代初め

需要:一部の金持ちの芸能人や芸術家の間で広まる
供給:マイアミが麻薬金融センターとなる、経費の50倍で捌ける、90%押収されても利益が出る、78〜83年がメディジンの最盛期(82年にパブロ・エスコバル議員に)、マイアミの犯罪多発はヤク中のトラブルではなくて売人たちの金の争い
対策:1981年バハマに圧力かけてノーマンズ・キーを閉鎖、1984年にはDEAとコロンビア警察が協力して製造村から10トンを押収するが、市場には影響なし

  • 80年代半ば

対策:政府は白人中産階級の子をマリファナから守るための「Just say No.」運動が最優先、DEAは予算がないなかコロンビアの組織を叩くためにコロンビアと「犯罪人引き渡し条約」を求める
供給:コロンビア政府は買収出来るがアメリカに引き渡されるとまずいので、初めて麻薬組織と政府が全面対決(84年の法務大臣ララ・ボニージャ暗殺がきっかけ、85年には麻薬カルテルと反政府ゲリラが結んで裁判所を襲撃して12人の判事が死亡)
コメント:リアルタイムの頃、犯罪組織は闇雲に暴力的だと思われたが、歴史的背景がやっと判明
供給:ニカラグアではカルテルと反共勢力(コントラ)が結託、コントラとCIAが協力して密輸をしていた事実もある、オリバー・ノースはニカラグアでコロンビアカルテルの大物を逮捕する作戦をマスコミに洩らし、潜入捜査官死ぬ、麻薬戦争より冷戦が大事だった
需要:83年、バハマでコカインを更に精製するクラック登場、安価で純度の高いクラックがNYではハーレムからダウンタウン、マンハッタンの南まで瞬く間に拡がる。今度は母親等女性中毒者も急増
供給:クラックは少人数でアメリカの工房で製造され、コロンビアは無関係
対策:取引を仕切っている奴が見えないため、手のうちようがない。マリファナ取締りが政府の方針だったためクラックは野放し
供給:クラックの原料と成るコカインの輸送ルートがバハマ→マイアミからメキシコ経由に変更
対策:85年DEA捜査官がメキシコで汚職警官に誘拐される→国境閉鎖→国務省はメキシコとの関係悪化を懸念→捜査官は遺体で発見(一度埋めたのを掘り返してドブに捨てる)→事件に絡むメキシコ政府高官は野放し
コメント:プリンスが『サイン・オブ・ザ・タイムス』で「クラックでハイになった男がマシンガンを持って街をうろつく」と歌ったのは1987年

  • 80年代後半

対策:86年大学バスケのヒーローでNBA入りが決まっていたレイ・バイアスがオーバードーズで死亡→政府が急に熱心に、中間選挙目当てに刑罰強化の法案がガンガン採択→刑務所に人いっぱい→刑務所の建設ラッシュ→公共事業の発注で大儲け、逮捕者の資本没収法→捕まえる程その省が潤う→濫立する機関の縄張り争い→CIAにFBIに関税局に税務庁などでDEAに権限なし、89年大統領直属の国家麻薬対策室室長が誕生→しかし既に88年からクラックの乱用者は減っており(あまりに危険過ぎたので自然に下火)成果を見せるため不定期利用者にターゲット→社会失格者としてとっ捕まえる

  • 90年代

供給側:メキシコのサリナス大統領はNAFTAを締結するためにメディジンを潰してアメリカの御機嫌を取る→その裏でカリ・カルテルと結ぶ、88年には麻薬取締り警官隊がカルテルに雇われたメキシコ軍に皆殺しになるが軍人にお咎めなし、カリ・カルテルも90年代半ばに消滅して今は300の組織がコロンビアに濫立→買い手市場、国内の供給システムは完成の域に到達
需要:メタンフェタミン、コカイン、ヘロインなどの週末定期利用者が増える
コメント:全体として、現場の取締りはよくやっているが、政府の方針が毎回的外れな目標を定めるので、麻薬戦争に勝てないぞ、ということ。今も政府はコロンビアの供給者を叩こうとしているが、現場の専門家にしてみれば、いたちごっこで、アメリカ国内の予防と治療によって需要を減らすしかないという