2007/1/2放送(2005/12/3初回放送)、約120分(CMカットして約100分)、ナビゲーター:黒谷友香、ナレーション:大杉漣、監修:保田孝一(岡山大学名誉教授)、構成:村上信夫、撮影:汲田龍一/七澤甲、ディレクター:浮田哲、プロデューサー:山下和晴(テレビ東京)/田之頭洋一(オフィス・トゥー・ワン)、製作:BSJAPAN/オフィス・トゥー・ワン
(1)エルミタージュに現物が残っていること、(2)ニコライ2世の日記に記述があること、(3)日本側にブツを提供した記録が残っていること、この3要素が絡み合って面白い歴史系ドキュメンタリーになっている。日記に書いてあるけど残っていないもの、興味深いブツだけど来歴が分からないもの等、制作者が取り扱いたい誘惑に駆られながら前述の3条件が揃っていないために涙を飲んで見送った史料もあったことだろうが、そこで妥協しなかった制作者のストイックな姿勢が素晴らしい。過去の文章を下敷きにしつつも映像の長所を存分に生かしたなかなかの傑作。
昨年2月に保田先生が亡くなった際、ネットで色々と検索した結果、この番組に関わっていたことを知ったものの既に放送は済んでおり、その後、番組表等をマメにチェックして再放送の情報をじっと張っていた甲斐あって、何とか捕獲に成功した。保田著『ニコライ2世の日記』のように一次史料から皇帝個人の性格や心情を解き明かしたところで、マルクス主義的な歴史学会からは「皇帝が良き家庭人だった、良き父親だったからといって、それが何なんだよ。歴史学というのは批判精神で、社会構造とかを解き明かすのが目的なんだよ」などと言われ、おそらく先生の仕事はあまり評価されなかったのだろうけど、1960年代にソ連を訪れて以来、社会主義とか段階的発展とかに見切りをつけていた先生だから、下らない蛸壺の中で論文が評価されるよりも、こうやって亡くなる前に素晴らしいドキュメンタリー作品に関われて幸福なことだったろうと想像する。まあ「監修」といっても、制作者から「日記の訳文をそのまま使用させてください」と儀礼的な断りを受けただけかもしれないが、「イデオロギーよりも事実」という先生の姿勢が生かされた作品であることには違いない。