パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS1『BSプライムタイム』「スターリングラード攻防戦・60年目の証言」(STALINGRAD)

第1回 『独ソ決戦の火ぶた』(DER ANGRIFF)、第2回『孤立した30万のドイツ兵』(DER KESSEL)、第3回『砕かれたヒトラーの野望』(DER UNTERGANG
2004/2/2,3,4放送分、50分×3、プロデューサー:レオポルド・ヘッシュ、構成:ゼバスティアン・デンハート、編集:ギード・クノップ(ZDF)、撮影:ペール・ホルストマン、制作:ブロードビュードットTV(ドイツ/ロシア2003年)、【日本語版】制作統括:古川潤、解説:大貫康雄ヨーロッパ総局長
(ZDFの公式サイト)http://www.zdf.de/ZDFde/inhalt/30/0,1872,2029758,00.html
編集のグイド・クノップには『ヒトラーの共犯者―12人の側近たち〈上・下〉』(原書房)というテレビ・ドキュメンタリーを元にした著書などがある(これはNHK-ETVで放送していた『ヒトラーと6人の側近たち』『ヒトラーの側近たち?』のことだろう)。歴史学博士かつ大学でジャーナリズムを教え、ZDFの現代史番組部局長(http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/456203677X.html)とは凄いな。
アマゾン・ドイツで販売されているビデオでは収録時間131分。ZDFサイトを見る限り本国でも3回に分割して放送されたようだ。大体、映画1本と同じ長さだが、ドイツ版、ハリウッド版の映画よりも正直面白かった。「作り物より事実の方が心を打つよね」という道徳的意味での面白さではなく、純粋にエンターテイメントとして面白かった。元軍人等の証言→証言を裏付ける資料映像を挿入(適材適所!)という流れが見事だった。その上、証言一つ一つが実際に体験していないと出てこないだろう妙なリアリティに溢れていた。あり得ないエピソードが尽きなさ過ぎ。コメントだけでも全部メモっておけばよかったと思うほど。また、こうした歴史昔話系の場合、ネタ本の著者が椅子に座って「…あれは全く馬鹿げた戦いでした」なんて歴史評価を語る現代映像なんかが挿入されてがっくりくる場合が多いのだが、当事者の証言のみで通したのは見事。前線の動きを視覚で説明してくれるCGも分かりやすくてよかった。
そうはいってもドイツ版映画をみたのは94〜95年頃なので、実は覚えているのは真っ白い吹雪のなかを彷徨うドイツ兵の映像くらい。ちゃんと比較は出来ない。ただ映画の粗筋サイトなんかを回ると、空港で怪我人を押し退けて将校が脱出するエピソードなんかもあったようで、ドイツ版映画も攻防戦に関する事実関係はきちんとなぞっているはず。それから十年も経ってこのドキュメンタリーが製作されたのは、ドイツ国民に新事実を突き付けるというよりは、皆がよく知っている事実を「当時のニュース映画に使用されたのだろう貴重なカラー映像で再構成したい」&「今のうちに貴重な体験者の証言を残したい」(史料的価値)からだろうか。個人的には、このドキュメンタリーをみて事実関係の流れを掴んでから2本の映画を観れば、物語の背景を感じながら人間ドラマに集中出来て良いと思う。是非見直したい。
攻防戦の流れ:ドイツ軍スターリングラードに迫る→ソ連軍市街地から川沿いまで退却→ドイツ軍市街地及び軍需工場を空爆→ドイツ軍市街地入りし、ソ連軍と白兵戦→冬が来てドイツ軍の補給が滞り、ソ連軍が町を包囲し始める→ドイツ軍への補給切れ孤立、しかし降伏許されず。おそらく「スターリングラードは戦略上そこそこ重要だけど最重要ではない」というのがドイツ側の見解で、それ故ドイツ軍はそこそこの敵しかいないと思って失敗した。定石では有り得ない気合の入ったソ連側の人員配分がかえって敵のリズムを狂わせたのなら、論理的に詰めるばかりが戦いではないのかもしれない。
ユダヤ人とポーランド人との関係とかウクライナ人と中央政府ソ連)との関係なんかは、ドイツ軍が攻めてくる前からいろいろごたごたがあったはずだが、どうも「とにかくその地にドイツが侵入したのが発端なのですから全部ドイツが悪いんです」→「そしてそれはヒトラーを中心とする指導部が悪いので奴らには責任とらせます」→「その他実質的被害は賠償金と経済援助で後腐れなく解決しましょう」といったすり替えが感じられる。ドイツ側に責任があまりないことまで自分達で引っ被り、その分ドイツの一般市民が負わなければならないはずの(道義的な)責任まで免除してもらう。その方が英仏その他交戦国にとっても都合が良いので、その歴史解釈を受け入れる。お互いなあなあでやっていけるわけで、正直すごく嫌らしい感じはする。ドイツの「悪いのは全部ヒトラーナチスと軍上層部など特権階級で、ドイツ人庶民も被害者」という公式史観にならって「悪いのは全部昭和天皇東条英機。その他の事は経済援助で埋め合わせするから」とした上に成り立つ日中朝友好というのは微妙だし、相手国との兼ね合いも含めて考えるべき事なのに何でもドイツと日本を比較対象にすればよいというものでないだろうと、NHKヨーロッパ総局長には言いたい。もっと言うと、何でもかんでも反戦や近隣友好の素材として(自分側に引っ張って)料理するのは、制作したZDFにも視聴者にも失礼だろう。むしろ実況板の軍ヲタや嫌韓厨の方が少なくとも事実に関する知識はあるので勉強になった(どうリアクションするかは別問題として)。
第1回辺りの民間人及び捕虜虐待映像に既視感を感じたが、自分の記憶を探ってみるとそれは92〜93年の旧ユーゴ映像だった。というか話は逆で旧ユーゴ映像の方が昔のニュース映画の表現方法をパクったのだろう。西欧が急激にセルビア悪者説に傾いたのは、昔自分達がやらかした忌わしい記憶を甦らせる映像に過剰に反応したためかもしれない。ただ映像を撮った側がセルビアを陥れるために意識して方法を真似たのか、無意識に昔見た事のあるカット割りを模倣した形になったのかは分からない。「強制収容所の映像なんてどう撮っても嫌悪感を持つ映像になるに決まってるだろうが!」というツッコミは無しで。
おまけ1:周辺関係国に相当気を配った編集をしているのに、番組内でのルーマニア軍の評価・扱いは「どうせルーマニアは放映権なんて買えないから見ないだろ」と見下した感じがする。
おまけ2:証言に出てくるスターリングラード市民の多くは、ロシア系というよりブレジネフ顔というかウクライナ系&中央アジア系のブレンドっぽい。