パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

「9.11日本人遺族の4年」

ハイビジョン特集』版…2005/10/11再放送(9/9初回放送)、110分、撮影:夏海光造/石井有生、取材:辻圭一郎/市来愛、ディレクター:伊藤憲、プロデューサー:田口和博、制作統括:鳥本秀昭/北川恵、共同制作:NHKエンタープライズ、制作・著作:NHK/テレコムスタッフ、画面比16:9
ETV特集』版…2005/10/1放送、90分、撮影:夏海光造/米山敦、取材:辻圭一郎/市来愛、ディレクター:伊藤憲、プロデューサー:田口和博、制作統括:塩田純/鳥本秀昭/北川恵、共同制作:NHKエンタープライズ、制作・著作:NHK/テレコムスタッフ、画面比4:3
せっかくハイビジョンで撮影したものを、地上波で放送する際にわざわざ画面比を変換しなくてもよい気がする。ハイビジョン版では4被害者5家族(1人の被害者に妻と父という別世帯)のエピソード、20分短いETV版では個々のエピソードから少しずつシーンをカットするとともに、1家族分まるまるカットして3被害者4家族。それからETV版は、2005年9月11日に行われた式典を追加取材していた。
ETV版でカットされたのは、福岡の農家で、

「いろんな人から『テロについてどう思うか』などよく訊かれるが、私たちがどう思ったって、向こう(テロリスト)に通じるわけじゃないし、『とにかく自分の子供さえ返してもらればいい』と言い続けた。そりゃあ、気持ちとしては『(テロは)してはいけないこと』と思っても、『誰が受け止めて、誰がそれをストップさすんですか』ということ。未だに続いているじゃないですか。声に出して(テロが)止むのならば、いくらでも言う」
(聞き取り、やや不正確)

といった発言をしていた。制作者がポジティブ物を作りたかったので、こういう「言っても無駄」みたいな諦念・諦観の持ち主は番組の主旨にそぐわないからカットされたのかもしれないが、個人的には「前向きにテロ事件と向き合おうとしている人もいれば、そんな風には思えない人もいる」という幅を出すためにも残して欲しかった。「子供を亡くした理由を受け止めることに興味はない。ただ亡くなった事実を受け止めるのが精一杯」というのは決しておかしくないと思うし。むしろ「アメリカ人の夫を亡くし→子供を抱え→米国市民権を取り→ピアノ教師の資格を目指す」女性のエピソードの方が、テロと向き合う困難を示したいのか、残された日本人妻が生活していくことの困難を示したいのかが分かりにくく、制作意図をぼやけさせていたと思う。とはいっても、制作者の真の意図など分からないし、決められた放送時間の中での選択など最後は好みの問題に過ぎないのかもしれない。ちなみに他の3者は、句集を出したり、エッセイ集を出したり、アフガンに自費で建物を建てたり。

デイトレーダーだった息子を亡くした父のエピソードだが、ナレーションで、父の事を「幼い頃、両親を亡くしましたが、独りで事業を興し、成功してきました」、息子の事を「アツシさんは父親と同じように、自分独りの力で成功を手にしました。しかしその夢は事件によって断ち切られます」と説明していた。これで、その後に父親が社会的成功の虚しさに気付くとか、成功の途中で人生が断ち切られることの不条理を嘆くといった判りやすい展開になるのかと思えばそういうわけでもなく、ドキュメンタリーのスクリプトとしては少し危なっかしいレッテル貼りに感じた。視聴者をどこへ導こうとしているのかが整理されていないから、視聴者に与える情報も整理されていない印象を持った。もちろん、過度の誘導を計る代わりに入手した情報をとにかく投げることで、よりリアルで視聴者に考えさせる余地を残した。ドキュメンタリーの完成度は低いけど、訴えかけてくるものは大きい。そう好意的にとる事も出来る。