パロップのブログ

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BShi『ハイビジョン特集』「イラク戦争・遺族たちの一年」

2004/5/12放送、110分、構成:小泉世里子(NHKJN)/坂牧麻里(NHKJN)/平良英、制作統括:北川恵(NHK)/藤井勝夫(NHKJN)、共同制作:NHK情報ネットワーク、制作・著作:NHK
珍しく2部構成。第1部「戦場に散った夢」では、開戦直後に亡くなった4人(アメリカ人、メキシコ系アメリカ人、ウェールズ人、トルコ系カナダ人)がイラクへ行った動機(兵士もいれば赤十字の職員もいる)や彼らの家族を取り巻く状況などを扱い、第2部「あれからの1年」では、1年後(今年4月頃)の家族の姿を伝えるという内容。恐らく番組のコンセプトは「今米国が批判されているのは『フセインを倒す』という開戦の目的そのものは間違ってなかったけど、その後の占領統治のやり方がお粗末だからだよな」という意見に対して「開戦後、わずか1カ月余りで亡くなった人達がいる。それは統計にすると僅かな数だけれど、(特に家族にとっては)かけがえのない命で、1人ひとりの人生を丁寧にすくいあげることでみえてくるものがあるはず」という開戦という判断そのものへの批判的メッセージを発するのが狙いのはず。
しかし何故か2部から突然、昨年11月に殺された韓国人技術者家族の話が加わることで焦点がぼやける。英米の占領政策が嫌われ、大規模な反抗が顕在化しつつあった時期の死者を同列に並べてしまうと「結局、ブッシュとその仲間に殺された遺族の恨み節か」という事になる。それが元々の主題ならば別に構わないけど、「じゃあ、タイトルについている『遺族たちの一年』って何よ」という事になる。周囲の大部分が戦争に賛成し、死んだ人間は英雄扱いという空気に違和感を感じつつも表明しにくい中で家族が過ごしてきたこの1年間、という密度を薄くしてしまう構成は恐らく失敗。
番組内で、戦争に行きたがっていたウェールズの子供たちは、失業対策や教育の普及で意識が変わるのだろうか。「学校で勉強する男子は馬鹿にされる」という話を読んだ記憶があるし、多分今でも幾らかは階級差別とか残っているのだろうし、「どうせ勉強したってたかがしれているし、とっとと社会に出てカネ稼ぎたいぜ!」と、16歳くらいで義務教育が終わったら、専門職を選ぶ発想の延長で兵隊になりたいと思うのも想像出来る範囲だし、あくまで生活するための職業として軍人を選ぶのだから「国を守るために軍隊に入ったはずなのに、今はおかしい」とか「大義がある場合のみ戦ってもよい」という日本の自衛隊的な発想が出てこないのも納得の範囲。そういう割り切りというか屈託の無さみたいな部分を、社会的な背景抜きで扱うのは難しいと思う。