パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS2『地球に好奇心』「人形に命を吹きこむ〜チェコ・若きアニメ作家たち」

2004/1/24放送、75分、資料提供:小宮義宏(レンコーポレーション)、構成:青戸隆明、プロデューサー:本間岳史、制作統括:下田大樹/冨沢満/斉藤圭介、共同制作:えふぶんの壱
日本でチェコアニメを配給しているレンコーポレーション(http://plaza19.mbn.or.jp/%7Erencom/)が番組に協力している。
私がチェコヲタであることを差し引いても、かなり傑作。アカデミーに在籍している及び卒業した個人それぞれの現在を記録する事で「人形アニメーション作家」という集合体の成長物語を見事に表現していた。と同時に先輩が後輩の指導にあたる場面を追う事でチェコにおける人形アニメーションの歴史と伝統をも見事に描いた。実は見る前に「アカデミーの現場から歴史的史料映像へとコロコロ転換したらがっかりだな」と危惧していたが、それはほとんどなかった。あくまで取材してきた映像を使って、鮮やかに流れを生み出していた。しかし、これから地上波用に50分バージョンを作るとして、一体どこを削れば良いのか。人形博物館の映像くらいだろうか。誰か1人分のエピソードを丸々削るのだけは避けてほしい。デッサン才女、カメラワーク小僧、CGチャレンジャー、天才、そして教授、全員が一つの物語の1過程を構成しているわけだから。
そういうわけで、今回は番組の見せ方に関するいちゃもんではなく、内容に関するとりとめのない感想。
人形アニメーション作家になろうという人は例外なく天才にして変人だろうと思う。自分の分身ともいえる人形を作る工芸力、生物の動きを正確に絵コンテ化出来るデッサン力、物語の創造力及びスピード感やテンポからユーモアを生み出すセンスなどを兼ね備えてなければならない。そう考えると日本の高名なアニメーション作家も凄い才能なわけだろうが、人形アニメーションの場合、1秒24コマを撮影するために人形を動かす事まで作家本人が計算しながらやらなければならない。いくら日本のアニメでも、もう少し分業化が進んでいると思う。喩えチェコの作家に資金が流れるようになっても、他人を雇って分担出来る作業がない以上、作業スピードは上がらない。
あの天才変人に妻も子供もいたのが、ちょっと悔しかった。いや、当然すごいもてるとは思うけど、ちゃんと家庭があるとは。
個人的には顔の表情を付け替えたり、歌ったりする路線はあまり好きではない。能面みたいな表情なのに、細かい仕草で表情も変化しているように錯覚する事こそが原点ではないかと。人形アニメの祖たる手で動かす人形劇も、精々ワンタッチで表情が阿修羅のように入れ替わるくらいで、後は動きによって感情を表現するのではないかと。まあ、ほとんど言いがかりだけど。
デッサン才女が大事に持っていた夫婦(?)の人形をみて思ったが、人形アニメーション作家になるチェコ人というのは、子供の時から自分の中に固有の登場人物(キャラクター)を作り上げており、アカデミーというのは科学的なアプローチで動的な正確さをキャラに与え、商業用には自分の中のキャラに様々な服を着せ替えて登場させているだけ。多分あの才女は技術が上がるにつれ、何度も夫婦人形を作り直すのだろう。というか、キャラデザインとかイラストレーターを生業にしている人は何処育ちだろうと皆、自分の中にそういうモチーフを持っているものだろう。つまり何が言いたいかといえば、自分の中にモチーフがないと、人形を動かす技術があっても、凄い物語を創造する才能があっても、人形アニメーション作家を志すのは難しそうだ。
番組に出てきたアカデミーは超エリート製造工場なわけで、巷には他にもピンからキリまで学校はあるのだろう。強力な指導者も恵まれた作業環境もないけれど、エリートのレールに乗らずデジカメ1つでとんでもない作品をひっさげた在野の才能が出てくると、更に面白いかも。
資金繰りに困っているチェコ人作家は多少魂を売ってでも日本でキャラクターデザインを手掛ければ良いと思う。誰にも真似出来ないユニークな個性と大きくてキュートな瞳があるのだから、あとは日本の市場向けにするためのアドバイスさえ聞き入れれば、萌え系美少女の出来上がり。今のままだとややグロい(でもそこが良い)。