パロップのブログ

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「天皇杯1回戦・サンフレッチェ広島ユース対水戸ホーリーホック」

2003/11/30

天皇杯の1回戦を観に、福山まで出掛ける。国道2号線を真っ直ぐだから、福山市内までは問題なく1時間ジャストで着いたが、その後、自分らしく初めての道は迷う事を想定していた。と思ったら、ちょうど紫熊バスに抜かれたので、後ろを付いていく事にする。しかし紫熊バスの運転手、曲がる箇所を間違え、私も巻き添えを食う。1時間半前に福山市竹ヶ端運動公園に到着。大きな興行を経験しているとは思えないのに、駐車場の看板、入場券売り場の看板など分かり易くて好感度高し。天皇杯の準々決勝というビッグイベントを初めて行う岡山桃太郎スタジアムの関係者は視察に来ていたのだろうか。

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広島ユースのスタメン

…8前田俊……10馬屋原……11西山……
…………………20桑田……………………
………5前田和……………6田坂…………
…2高柳……3中野…4藤井……14森脇…
………………16佐藤昭大…………………

広島ユース(紫)は、(左から)3トップに1トップ下、2ディフェンシブハーフ。水戸(白)はフラット4バックにダイアモンド型中盤、2トップは縦の関係(画面右端が下がり気味の樹森)。多分右端のハーフライン付近に広島のフラット4と水戸のフォワードがいるはず。

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最初の15分は、大人と子供の戦いがもろに出て、競り合いの度に子供側が吹っ飛ぶので、観ていて楽しくない。正当な競り合いでも、何か悪者のような気になって水戸の選手もやりにくいだろうし、正直、天皇杯に身体の出来ていない高校生を出場させてプロと対戦させるのはどうかと思った。
それをいうなら、小野伸二など18歳の時にはワールドカップに出ていたし、「若いからといって甘えた事をいうものではない」といわれそうだが、11人の中に1人だけ成長途上の天才肌が混ざっているのと、11人全てが成長途上なのは、やはり意味合いが違う。特に、ディフェンダーとフォワードは体格差が反映されやすい。この日の広島のセンターバック2人は、ともにそんなに上背がある方でもなく、トゥーリオ田中との競り合いでは全く勝てていなかったし、センターフォワードの馬屋原も水戸のセンターバック2人に対して脅威を与えている場面はほとんどなかった。そういう意味では、中盤の選手の方が若年デビューしやすい気はする。
しかし15分過ぎた辺りから、決して水戸が手を抜いているというわけではなく、お互い今日の競り合いの基準を確認し合ったというか、「サッカー」というゲームを円滑に進めるための紳士協定が生まれたような感じで、試合が落ち着き始めた(私は自分でプレーした事がないので、本当のところは分からないが)。〔他のちゃんとしたサイトを読むと「ただ広島の選手が慣れてきただけ」という話だし、実際テレビで見ると、確かに段々とコンタクト負けしなくなっているような気もする。〕
広島が3トップにしているのは「フォワードを育てるため→敢えて前の選手を多めに使え」という育成プランに基づくものと推測される(確かフランスもトレセンでは、育成の意味を込めて3トップを採用していると聞く)。よって、中央の馬屋原もポストプレーヤーというわけではなく、3人ともが前を向いて突破するタイプ。少し背丈があるので便宜的に中央へいる感じ。しかしサイドでボールを受けて前を向く方が推進し易いのも確かで、前田俊と西山がドリブルで何本か見せ場を作ったのに対し、ポジション的に馬屋原は割を食っているようだった。
また、広島は両サイドバックが同時に上がって2バックに近い場面もある。広島ユースは元々攻撃的なポジションをしていた子供を獲得してはコンバートしているという話なので、これも敢えて攻撃的姿勢を意識しているのだろうが、その分、守備的中盤の2人が最終ラインの前に残ってスペースを埋める必要があり、個人能力をアピールする場としては、割を食うポジションだろう。
サイドバックの高柳は下がって1対1でのディフェンスも強いし、タイミングの良いフリーランニングと鋭いクロスまでバランスの良い印象。上のレベルでやればやるほど成長するタイプか。右サイドバックの森脇は公称176センチよりでかいだろう。やや荒っぽいところもあってアランサバルやファンフランのような日本ではあまりみかけない、絞ってストッパー的な仕事もこなせる大型サイドバック像が期待出来る。
前田和は水戸の縦に並んでいる2トップのうちの引き気味18番(樹森)に付き、時には最終ラインを追い越してマークするなど目立たない仕事を主に担当し、もう一方の田坂はその少し前の位置で、ボール奪取からテクニックあるドリブルで前進、半身を相手に預けてボールをキープし、体を傾けながら「クッ」とひねってサイドチェンジのパス(←この辺りはエルゲラっぽくてかなり好みだ)といった感じで大車輪の活躍。個人的にはMan of the Match。イメージでいえば、ラコルニャのセルヒオみたいな感じ。正直「現時点だと同タイプの青山(作陽)より上だろう。田坂と契約しろよ」と思った。
この秋までは、高萩と田坂の守備的中盤だったのだろうが、それだと華麗だけど打たれ弱そうで、バランスが悪いようなイメージを持ってしまう。高萩と田坂では、どっちか(または両方)が最終ラインまで戻って守備をするのは難しそう(2人の守備意識が低いという意味ではなく、役割分担が曖昧になるのではという意味)。
桑田も損な役回り。いつもの同級相手だと、もっとボール支配率が高くてゴール前に絡めるのだろうが、ディフェンス面に気を遣うと、カウンター攻撃になかなか参加できない。どうでもいいが「クワ」の字は、別の漢字(「十」書いて「草かんむり」書いて「木」)なんだけど、プロに上がるなら、機種依存文字じゃない登録名にして欲しい。
前田俊は面白い。開始数分、トゥーリオと1対1になった時、躊躇なく抜きにかかった。太々しい上に、ハートがありそうなところが良い。その後、オーバーラップしてきた高柳もトゥーリオ相手に勝負していたし、チームにメッセージを送れる選手か。持ち味はドリブルだろうが、スピードで縦に抜くよりは、ボールに沢山触ってコース取りで抜くタイプ。といってもコネるわけではなく、触る度に前に進んでいるので相手にとっては怖いだろう。前田俊にしても田坂にしても、ワンタッチでボールを動かすわけではないけれど、コネコネするイメージがないのは、ゴールへの道筋のイメージが頭に描けていてその最短距離を目指している感じが伝わって来るからだろうか。本来の意味での「ダイレクトプレー」意識が強いというか。
前半の半ばから左の前田俊と右の西山が左右のポジションを交換した。意図は不明。西山は公称163センチだが、多分もっと小さい。ミニ・ヤコブセンみたいだ。後半始まってすぐ田村(9番)と交代。引き上げてきた時すごく不満そうだったが、この日はややパワー負けしていたような気がする。1本スペースに出たボールをトゥーリオと1対1で競走する場面があったが、走り勝ててはいなかった。細かくチョコチョコ動けばスピードありそうにみえるが、純粋な徒競走だとトロそうな大男の方が早かったりする。やはり、小さい選手には、トップスピードの中でも発揮出来るテクニックが余程ないときついのだろう。そう考えると鹿島の深井なんかすごい(ちゃんと見た事ないけど)。
ディフェンス時、スッと体を寄せてファール無しにボールを奪う動き、よく森崎カズがするプレーをほとんどの選手が出来るのをみると「広島ユースはすごいなあ」と単純に思う(まあ田村は何回かデラペーニャみたいな追い方をしていて「あれっ?」と思ったが)。ボールタッチとか一つ一つのプレーは広島の方がテクニカルなんだけど、効率良くスピードとパワーで前線までボールを運ぶ水戸。喩えるとタイ対カザフスタンみたいな。
確か後半の途中に、馬屋原→吉村(13番)、延長に入って故障した(周辺の関係者っぽい人の話では内転筋を痛めたらしい)前田俊→田中祐樹(15番)。吉村はディフェンス登録だが、やはり3トップの一角で動いていたような気がする(この辺になると、試合自体が面白くてボールの行ったり来たりに集中していた)。結局交代は3トップの総とっかえのみ。テクニックとスピードで勝負のユースとしては、運動量とキレが落ちるにつれて攻め手がなくなりつつあったから当然だろうが、中盤3人も90分+延長戦をするなんてなかっただろうに、素晴らしいファイト。
佐藤昭は上手下手は分からないが、とにかくまだ線が細い。来シーズンは第4キーパーとしてトップ登録されるようだが、出番が回ってくるような事態にはなって欲しくない。「カシージャスやヴェッセルスだって同年代でトップデビュー」とか言ってはいけない。
センターバック2人はあまり上背がない。足元は上手い。ガンバ宮本みたいだ。後ろからビルドアップする様は楽しいが、水戸がプライド捨てて後半最初からトゥーリオを前線に固定していたら、もっと早く失点していてもおかしくなかったと思う。
水戸にとっての理想的展開は開始早々にセットプレーからトゥーリオが先制し、後は(トゥーリオを守りに専念させて)リスクを負わない形でカウンターから追加点を狙う形だったろう。個人的に、広島にとっては理想だが一番収まりが悪いと思う展開は、0対0のままロスタイムに広島が先制してそのまま終了。個人的に一番理想的だった展開は60分くらいに広島が先制し、残り30分水戸がなりふり構わず点を取りに来る。結局そのどれにもならず、水戸の戦い方が「いつでも点は取れるからゴリ押しみっともない」「いつでも点を取られそうだから無理しない」の狭間で揺れているようであり、延長戦までいってしまった。まあ熱い試合になったのは確かだ。
会場の雰囲気はもともと格下で且つ地元である広島ユース寄りだったけど、試合が進むに連れてますます互角に戦っている広島への声援が大きくなる。「アップセットの起こる雰囲気って段々と作られるもんだなあ」と感心したが、見ている我々は歴史的場面を目撃するだけだから気楽だけれど、「勝って当然、負けたら批難轟々」になるのが分かっている水戸側の事を考えると、水戸の勝利は正当な報酬(C湯浅健二)だろう。気の抜けた不味い試合をしたのならともかく、失うものがない厄介な相手に対してきちっと守り、決定的なチャンスもより多く創って良い内容の試合をしていたのだから(余談だけど、NHKの放送も最初から森山監督のインタビューやら流し、表情やらを追い掛けて「波乱が起きて盛り上がれ!」感が露骨だった)。
巷で絶賛されている高校2年生組(佐藤昭、高柳、藤井、桑田、前田俊、森脇)はこのまま順調に育てば、トップに昇格するのだろうが、現3年生は今のところ昇格は田村だけで、(もしかするとほとんどの選手が既に進路を決めているのかもしれないが)全国放送はアピールの良い場だし、西山なんかももっと長くプレーしたい口だったと思う。もちろん森山監督が品評会気分ではなく勝ちにいった事は、交代選手が昇格組3年生1人、3年生1人、2年生1人だった事からも分かる。
おまけ:トゥーリオは1人だけ(主に身体能力)レベルが違っていた。高校生相手に肘打ちする場面がテレビで流れたらしいし、純粋なセンターバックとしては過大評価させ過ぎとの意見もあるようだが、広島なら今年小野監督がサンパイオにさせた最終ラインの前でロングボールを跳ね返す役割をさせてもよいし、五輪代表なら高さがあって正確なロングフィードがあって中盤とポジションチェンジが出来るのだから「ポジション名:青木」に最適だろうし、日本人とは少し違ったメンタリティを持つ彼が、どんな化学反応をもたらすか見てみたい(広島カラーには合わないという人もいるかもしれないが、降格した2002年から約1年、トゥーリオも受け入れる広島側もお互い成長しているだろう)。
(原文)http://fayefaye-web.hp.infoseek.co.jp/football304.html