パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

『ETV2001』「ロシア〜徴兵に揺れる若者たち」

撮影:堀内一路/E.コクーセフ、音声:木村敏行、コーディネーター:Y.クラショフ、取材:高尾潤、構成:馬場朝子、制作統括:塩田純/山内聡彦
日本におけるロシア軍に関する報道ネタというと「チェチェンは無意味な戦争」とか「新兵イジメ」とか「とりあえず悪く描け路線」なわけだが、実際にはそれ程単純なことではないぞ、ということを考えさせてくれる最近珍しい傑作。場所は軍隊が常駐しており、大戦後は英雄都市の誇りも持っている住民感情が微妙なボルゴグラード、最初は徴兵検査の風景、徴兵に乗り気な若者、乗り気ではないけど「国民の義務だから」という者、行きたくない者、行けるなら行きたいけど病気な者、病気なのに徴兵される者、それらの中に「ロシアは大国だから」「ロシアは全ての戦争に勝っているから誇りだ」「今はもう敵はいないけど、義務だから」「新兵を殴るだけで軍隊がすることなんてないよ」など彼らの価値観を示すフレーズ。それから、段々と徴兵を拒否する者たちやその運動に展開する。憲法の条文を根拠に徴兵拒否の裁判を起こす者、徴兵中に先輩に殴られて脾臓を摘出した事を訴える者、徴兵拒否する孫を理解出来ない第2次世界大戦の英雄じいさん、「自分の望む人生を生きなさい」と励ますばあさんなど、世代間/男女間の価値観の違いも巧く表現している。話はそれるが、ロシアの歴史教科書が爆笑ものの予感がするのは私だけではないと思う。政府の価値観はコロコロ変わって前の政府がやったことはとりあえず悪く言っているが、一方で国土的な観点で「大国ロシア」は一貫しているのだから、どれを批判的に描き、どれを賞賛するかの作者の恣意性は日本の歴史教科書の比ではないはずだ。さて、スタッフをみる限り、ドキュメンタリー専門取材班ではなく、モスクワ支局のスタッフが勝手に作った報道路線の延長上にあるような感じだ。こうした今の時点で取材する意義も、日本の放送局が取材する意味も、内容から日本人が得られる教訓も何一つない単純な好奇心以外の何物でもない取材が行われている限り、NHKにはまだ期待出来る。(採点7)