パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

4月21日金曜日:プラハ4日目

街に出てみると、スポーツ・バーの看板にスラヴィアの試合を17時から放送とある。それまでの間、ジシュコフの下見へ行くことにした。といっても地図で見る限り、トラムで中心地から乗り換えなしでの直通だから、迷う心配はまずない。前日からチケットの売りをしているかと様子を見るのが、最重要課題。チケットには苦い思い出があるので神経質になる。95年にロンドンへ行った時、チェルシーマンチェスターUの試合(カントナ、カンフーキックから復帰直後)を見ようと、当日スタンフォード・ブリッジへ行ったら、チケット売り場に「ホーム完売」と表示され、周辺をとぼとぼ歩いているとダフ屋のあんちゃんから「2万円でどう?」と吹っかけられ、断った。アーセナルの試合も開始2時間前にハイバリーへ行っても「会員のみ」で、結局イギリス旅行ではフットボールを見なかった(大金出して見る程の熱意がなかったのも確かだが)。正直な所、チェコでそんなことが起こるわけもないとは思いながらも、友人がワールドカップ予選『チェコ対ユーゴ』の好カードをダフ屋から買ったと云う話もあったし、用心には用心を重ねて。
実はジシュコフにはフットボールの他にも個人的な関心があった。チェコノーベル文学賞詩人サイフェルトが幼少時代ジシュコフに住んでいたと、彼の素晴らしい回想記『この世の美しきものすべて』にある。今でこそジシュコフはプラハ市の一部だが、元々はプラハに隣接した労働者が多く住む別個の街で、ベッドタウンが年々プラハの郊外へ拡がるとともに行政区も拡大され、ジシュコフも吸収されてしまったらしい。50〜60年代の再開発で、アパートを3〜4ブロック進むごとに酒場があるような古い下町の雰囲気はすっかり失われた、とサイフェルトは嘆いているが、私はジシュコフがちょっとした反プラハの独自性を保っていることを期待していた。私がトラムを降りてジシュコフを見た第一印象は「まだまだぼろい」だった。停留所の目の前がスタジアムなのだが、道路に面したメインスタンド側以外の周辺を10階建てくらいの古いアパートに囲まれ、まさに地域密着。ゲートは開けっ放し、警備員もいない、チケット売り場に人の気配なし、おそらく当日に周辺に住んでいる人間だけが見に来るのだから前売りなんて必要ないのだろうし、もちろん満員売り切れもない。というか、周辺のアパートから見えるのに金払って見る奴なんているのか。とはいえ、柵から除く限りフットボール専用グラウンドだし、見やすさは保証付きのようだ。明日は朝、何時に来ようか、と考えながらトラムで市街地へ戻る。
今日こそは座って料理を食べながらテレビを見ようと、試合開始15分前にスポーツ・バーへ行くが、スラヴィア・サポーターの大群などどこにもおらず、ちょっと拍子抜け。空いているテーブルに座ったが、しまった、飲み物のメニューしか置いていない。別のテーブルに移動しようか、ぐずぐずしているうちに、そこそこ部屋は人で埋まり始めた上に注文を取りに現れてしまったので、とりあえず店の入口に貼ってあったメニューを思い出しながらビールとチーズを頼んだら、ビールと茶(チャーイ)がきてしまった。普通、ビールと茶(紅茶だった)を同時に飲む奴なんていないだろう、と思いながらも、多分自分は普通じゃない東洋人だと思われているのさ、とあきらめた。交互に1人で飲む。17時を過ぎるが別のスポーツが流れている。2分程たった処で、店の人間が大画面のチャンネルを替えに来る。試合はもう始まっていた。次の週になって分かったことだが、チェコ・リーグでは、その節の中から1試合だけ金曜日17時から行い、それを民放テレビNOVAで放送するシステムになっているらしい。スポンサーとの兼ね合いで金・土と生中継を放送出来るようにしているのだろうが、金曜日の夜にフットボールを見る習慣のない人間に新しい商売「フライデー・ナイト・フットボール」を定着させるのは難しい。アウェイの試合だったからスラヴィア好きのプラハ市民はおそらくテレビでしか試合を見られないはずだが、店は盛り上がっていない。地上波だから家でも見ることは出来るが17時開始というのがやはり気になる。平日にもう家に帰ってこれ見ている人はいるのだろうか。とりあえずこの店では客から「スラヴィア見せろよ!」の声がかからない限り、客のいない昼間から流しっぱなしになっているユーロスポーツがそのまま続いたのではないだろうか(店近くの大通りには「今日の放送カード」の看板を立てて、客寄せをしているにもかかわらず)。というわけで、本来16時50分から始まっているはずの放送のさわりを見逃したので、スターティング・メンバーが分からない。見たことのない顔がしている試合を誰か分からないまま見るのは、実は結構きつい。試合内容は、地力に優るアウェイのスラヴィアが時折攻め込む以外は中盤でだらだら、で盛り上がりがなく、試合中のテロップで判明したのは、スラヴィアの10番が代表でも見かけるホルヴァートということだけで、彼は天才肌らしくしょーもないことでキレてイエローカードをもらっていた。結果は0対0。