パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

『シカゴ7裁判』

 スポットライトとかペンタゴン・ペーパーズとか好きだから、これも好きなタイプと踏んで観に行った。イオンシネマ岡山で一番でかくて最新の音響を供えたスクリーン(409席)に観客8名。午後からはちゃんと客が入る映画に割り当てられていたから、ネトフリとの契約で1日1回はでかいスクリーンで流せとかあるのかしら。そもそも洋画の公開が壊滅しているからなりふり構わずネット映画を引っ張ってきたのか、私にとってはありがたや、と思っていたけど、元々ネトフリとイオンシネマは提携しているらしい。予定通りの劇場公開1週間。

 政府が送り込んだ天才エリート検事対反体制派に味方する常識破りの天才弁護士が論理を武器に自由と民主主義(とデモと暴動)をめぐって知的な攻防を繰り広げる法廷劇!を期待して観に行ったのだけど、実際には耄碌した判事が主役になり過ぎて天才検事なんか能力を発揮するところまで行かないのよ。まあ史実だから仕方ない。

 葉っぱ吸ってフリーセックスしてるイッピーをあからさまに見下している白人エリート坊ちゃんトム・ヘイデンとアビ―・ホフマンの対立と和解が面白いのに、今も昔も分裂気味の左派が互いに歩み寄る萌芽が描かれているのが面白いのに、ボビー・シールに尺の半分近く使っちゃって。まあ史実だから仕方ない。

 もちろん史実だから仕方ないわけだけど、創作としてこの脚本を提出されたら「プロットが散漫で、焦点がぼやけている」とか言っちゃいそう。これで緻密な脚本はちょっと賛辞が過ぎるのではないかと個人的には思うのだが、そもそも勝手に期待して勝手にがっかりしたのは私だけで、やっぱりよく出来た法廷劇なのかもしれない。

 例の人称代名詞所有格、検索して他の人の感想を読むと「逆転劇!」「カタルシス!」みたいに書いてあるんだけど、そうだったの? 詭弁を思いついて内輪では大ウケしたけど、耄碌判事には全然通じなくて一蹴されましたって話じゃなかったの?やっぱり私は映画が読み取れない。

 私にとってのラムゼイ・クラーク(映画で聞くとラムジーまたはラムズィくらいか。リンジー・バッキンガムと同じ綴りなんだから当たり前か)は、戦争犯罪でブッシュシニアを告訴したとかそれ系のニュースでお馴染みの左派なんで証言するオチは見る前から容易に想像できたのだけど、本当にああいうファンキーな感じのおっさんだったのかはわからないけど、とても魅力的に描かれていた。マイケル・キートン好きだから嬉しかったけど、もう主役を張る中年男性ではなく老人役よね。『マイ・ライフ』『ザ・ペーパー』の頃が私との蜜月時代。『バードマン』見てないけど、見た方がよさそう。

 シカゴ7の主役たち、四半世紀後には民主党左派の中心となり、クリントン政権で要職に就きました的なハッピーエンディングだったら感動だけど、現実は若きメディアの寵児がみんな偉くなったりはしないよね。

 エンドロールを睨んでいたら、アドバイザー的役職にトム・ヘイデンの名前があった(はず)。あんなこっぱずかしい坊ちゃんとして描かれているのに偉いなあと思って検索したら、2016年に亡くなってた。何となく生きていると勘違いしてた。思ったよりは偉くならなかった感じかな。フランスでいうとダニエル・コーンベンディット的ポジション。でもポートヒューロン宣言は思想的に評価されているみたい。映画内でアビ―・ホフマンも映画内で賢いと評価していた記憶もある。映画を見るとアクティビストだが、本来は思想家?

 1968年の民主党党大会が米国のある種の人々にとってすごく思い入れの深くて郷愁を誘う世界史的出来事だった感じは、米国政治・文化に関するいろんな文章を読むと何となく伝わってくるのだけれど、それは1974年生まれの私が80年代のテレビ放送で繰り返し「衝撃映像!あさま山荘事件」みたいに見た感覚で刷り込まれたものと似ているのか。ある程度の中年は裁判に登場する人物を説明無しに「ああ、あいつか。あのキャラクターか」みたいに知っているものなのか。その辺の距離感は今ひとつ分からない。観た人みなが絶賛する映画開始5分の洗練された登場人物紹介を見ると、最近の人は彼らを知らないことが前提かな。監督としては、ミレニアル世代とかその次のZ世代のような50年前の情報を知らない、最近の民主社会主義バーニー・サンダースに親和的な若者たちには新鮮なメッセージとして届くだろう、くらいの感覚だったのか。

 1994年くらいに偶然『ETV8』で「あれから25年後のシカゴ7」みたいなドキュメンタリーを見て、現代史(近過去)ドキュメンタリーの面白さに目覚めた人間なので、思い入れのある題材、というのも観に行った理由の一つ。NHK教育で月曜から木曜まで週4回、プライムタイムの20時台に45分ドキュメンタリーを流していたという信じられない時代。

 タイムライン検索すると「こんな良い映画なのにネトフリが全然宣伝しないから誰も知らなくて、全然客が入っていない!」と嘆く声多数なんだけど、ネトフリの戦略はよく知らないけど、仮に宣伝するとして山口二郎先生や五野井先生や中野晃一先生に「ここに真の民主主義がある!」「今こそアクションを!」「街頭に繰り出せ!」みたいなコメントを貰ったとして宣伝効果があるのかどうか、逆宣伝効果があるのかどうか、今一つ読めない。政治色をつけない方がいいのか、いやいやまさにこの映画こそ政治色を正々堂々臆することなく表明しようぜって映画じゃんと思うべきなのか。

 スピルバーグ(1946年生まれ)がユダヤ系なのは有名だが、アーロン・ソーキンユダヤ系なのか。1961年ニューヨーク・マンハッタン生まれ。

 レナード・ワイングラス(1933年生まれ)がユダヤ系なのは名前からして自明だが、ウィリアム・クンスラーもユダヤ系なのか。1919年ニューヨーク生まれ。

 アビ―・ホフマン(1936年生まれ)が証言台で「父は反ユダヤ主義に反対するロシア人で、渡米してホフマンに改名した」とか言ってたが、ウィキペディアみたら普通にユダヤ系だな。アビ―流の偽証かどうか誰も証明できない法廷ジョーク?

 ジェリー・ルービン(1938年生まれ)は英語版ウィキペディアをみても出自は書いてないけど、テルアビブのキブツで働いてヘブライ語を勉強して…というからまあユダヤ系なのだろうと推測。

 あの耄碌判事ジュリアス・ホフマン(1895-1983)もユダヤ系なのか。シカゴ生まれ、両親がロシアからの移民。まあ主役陣とは世代が一つ違う感じかね。耄碌していたのではなく、政府に買収されていたのでもなく、秩序と権威が何よりも大事な単純に古い世代の人間だったのかなあ。実は映画内で一番パーソナリティが気になる人物だった。それともこれまた私が映画を読み取れないだけで、あの判事は普通に政府の犬だったの?

 陪審員が評決を下す裁判でも、判事が証拠や証人の採用にあれだけ口を挟むことが出来るなら、裁判を始める前から被告人を「こいつら悪人」と決めつけている判事なら、容易に有罪判決に導けるなあという印象。実際1969年当時のシカゴ地裁ではあのレベルの判事はどのくらいいたんだろうね。クンスラーがあんな表情をしてしまうくらいの大外れくじを引いてしまった驚きなのか、これだけ全米の注目を集める裁判なら普通外れくじが出ないよう操作するだろ常考という意味で驚きだったのか、実は驚くに値しないほどゴロゴロしていたけど映画の演出上ビックリさせたとか、そういう時代の相場観はわからんよね。

 当時の裁判報道がどんなだったのか分からないけれど、あんな耄碌した運営を行う判事がいたら、公判翌日の地元紙で傍聴した記者から叩かれそうに思うけど、そういう風潮でもなかったのか。傍聴人も「あの判事、やべえよ」って言いふらしそうだが。この辺の時代の空気も見積もれない。

 全米を揺るがす大事件が舞台で、全米で知られたメディアの寵児が主役なんだけど、ところどころシカゴから一歩も出たことないようなローカルな人物が混ざってて、彼らが物語の鍵を握ったりするのが人類の歴史の面白いところなのだろう。

 元々ユダヤ系文化人は言論や表現の弾圧に敏感なイメージだけど、映画の企画に最初はベン・スティラーが絡んでいたらしいし、シカゴ7裁判という史実にはそれ以上にニューヨークのユダヤスタンダップコメディアンの琴線に触れる何かがあるんだろうなあという憶測。大真面目な社会派に不条理コメディが混ざったような史実。

 電話番のお姉さん、知的でユーモアと毒と勇気があって魅力的よね。端役だからネットで検索しても何も出てこないかも、と思ってエンドロールで目を凝らしたよね。Bernardineさん。ベクデル・テストの数値を上げるための創作キャラなのかと思っていたが、Bernardine + Tom Haydenで検索したらBernardine Dohrn (née Ohrnstein)が出てきた。ウィキペディアに項目もある著名人。恐らくロバート・レッドフォード監督・主演『ランナウェイ/逃亡者』(2012)のモデルにもなった人。DeepL翻訳で本文を読んだが、実際に電話番をしたのかは分からないものの経歴的にはモデルっぽい(いま見たら映画『シカゴ7裁判』の英語版ウィキペディアにはBernardineからBernardine Dohrnにリンクが張られていた)。むしろSDS内極左メンバーにしてシカゴ大学ロースクール卒って、トム・ヘイデンとウィリアム・クンスラーを繋いだ最重要人物の可能性すらある。そもそもあの事務所、被告のSDS側の持ち物なのか弁護士側の持ち物なのか、私には全然分からなかった。

 気になっていたことはだいたい書いたかな。おしまいっ!!

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