パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

『BS特集』「民主主義」9〜10

本題に入る前に、9月に録画してだらだらと見ていた『ハイビジョン特集』「新シルクロード」1〜4が面白かったので少し触れる。『Nスペ』で放送された時は50〜60分枠だったが、『ハイビジョン特集』では90分枠。長くなった枠をどう使うか。やむなく丸々カットしたエピソードを復活させる編集をする人もいれば、書き込み不足だったエピソードに色々足して深みを出す編集をする人もいるだろう。その中で第4集のカザフ〜南ロシア編は、装いも新たに取材した国分拓ディレクターが自らナレーションを行い、取材者の主観を全面に出した形で再編集されており、とても面白かった。国分ディレクターはいかにも良識あるNHK左派といった視点で、その平和主義とコスモポリタニズムが鼻に付くかどうかは見る側の問題になるが、人間物語の構成力が抜群であることは間違いない。人を正面から見据えて撮る力強いショット(撮影:佐々倉大)も作品に貢献している。ディレクターともども今後に注目していきたい。


『こども民主主義』
応援する親やルール無用な子供の選挙戦をニコニコと見ている教師を風刺的に描いているのかとも思ったが、それだとインタビューなど大人の内面に迫る部分がなかったので、もっと単純に、選挙というものについてまっさらな無垢な子供へ、ひたすら勝つための戦術を大人が吹き込むと、結果的に法律違反とか道義なんかが生まれる前段階の原初的な選挙活動を垣間見ようという試みか。
湖北省武漢市の小学校はおそらく良いとこの子弟が通う小学校。正直あまり中国には興味がないので書くこともない。

『選挙』
この川崎市政令指定都市だから区割りがあって市全体で補欠選挙をするわけではなかったようだが、たとえば人口60万人、有権者40万人の市で定数50の市議選をやったら、最下位は3000票くらいで当選するはず。それが欠員1の補欠市議選をやったら市長選並みの得票が必要になるので、普通は欠員を出したまま任期まで放っておくはず。これは参院選補欠選挙があったからついでに行われた特殊な事例だろう。国会議員ならともかく市議に落下傘候補というのも特殊だし。
先に触れた『シルクロード』の90分拡大版の中で、ソロモン王の賢者っぷりを噂に聞いたシバの女王が知恵比べをしに会いにいき、お互いに恋に落ちたエピソードを紹介していたが、指導者自身が実務と知識に溢れているべきだというのは、西洋圏の価値観に過ぎないかもしれない。たとえば劉備は周囲に才能ある人を呼び寄せる人間力的な才能が評価されるわけで、名前を連呼する選挙活動が滑稽だと言い切れるだろうか。ハロプロ関係の握手会レポなんかを読んでいると、冗談みたいだけど握手一つでファンが増えたり減ったりするらしい。笑顔とか見つめる眼とか簡単に嘘つけるやん騙せるやん、と思う人も多いだろうが、それを言ったらマニフェストだって簡単に騙せるし、公約を達成出来なかった場合の言い訳を次の選挙で書くテクニックが発達するとか、揚げ足をとられない討論テクニックが発達するとか、理詰め選挙も進化する方向を間違えれば、形骸化するのは同じ。
後援会のおっさんらしき人が候補者に党公認のありがたさを説いた後「だからこそ造反は許されない」みたいな発言は、直前にあった郵政選挙の文脈を知らないと意味が分からないだろう。まあ国会議員は自分がこしらえた組織こそ党県連だったりするので、的確な喩えとも言えないし。
これを見た外国人には「日本は一党支配が続いている非民主的な社会だと聞いていたが、未だにコミュニストパーティがあんな堂々と活動しているなんて、意外と多様性のある社会なんでないの」と思ってもらえると嬉しい。
インタビュー記事で監督は、駅前の演説シーンなんかをテンポよく編集せず冗長でも長めに映しているのは、見た人が情報ではなく空気を感じて欲しい、みたいなことを言っていたが、ラジオ体操のシーンなんかもそうだろうし、映像であることを活かした感覚に訴えてくるドキュメンタリーとして成功していると思う。電車に人間を押し込むシーンなんかは世界公開を意識しているのかなあと思ったけれど。