パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

米国中間選挙関連

ちなみに中間選挙は11月7日。締切もテーマも近しい5本のドキュメンタリーを同時に制作するのは大変。NHKと繋がりが深い制作会社にうまいこと割り振った感じ。

『BSドキュメンタリー』「何のために息子は戦ったの?〜イラク戦争・米兵の母たちの訴え」
2006/11/4初回放送、50分、撮影:米山敦、コーディネーター:徳力摩耶、取材:中村春男、ディレクター:長谷川格、プロデューサー:山根幸太郎、制作統括:佐橘晴男/東野真、共同制作:NHKエデュケーショナル、制作・著作:NHK/パオネットワーク、ワイド画面
放送前の仮タイトルは「何のために息子は死んだの?〜アメリカ・兵士の母たちの戦い」。少しタイトルが弱くなったのは、死んだのではなく、生還した(PTSDに悩まされている)兵士の母がいたからと思われる。番組内では、息子を失ってブッシュ反対になった人と、あくまで支持する人の両方を取り上げており、なかなか慎重な作りになっていた。
NHK公式サイトに上がった文章では、

(前略)シンディ・シーハンさんは2004年のサドルシティでの戦闘で24歳の息子ケーシーを亡くした母親だ。シーハンさんは去年夏、「なぜ息子が死んだのか答えて欲しい」とブッシュ大統領に迫り、「反戦の母」のシンボルとなった。「イラクは米国にとって脅威ではない。みんな無駄死にしている」。普通の母親による直接行動はアメリカ世論を揺さぶった。州兵や予備役までもが犠牲となる戦争は、どこかおかしいと感じる人が増えていたからだ。愛国的で平凡な母親に過ぎなかったシーハンさんの登場は、バラバラだった反戦団体をひとつにまとめる力となった。シーハンさんたちは今年も“WE HAVE THE POWER”を合言葉に、膠着したイラクからの撤兵を全米各地で訴える。中間選挙を控えた今年は、2期目のブッシュ政権にとっても正念場となる。戦場に息子を送り出した母親たち、生還してもPTSDに悩まされる兵士の母親たちは、この夏何を考え、どう行動し、それは世論の形成にどんな影響を及ぼすのだろうか。シーハンさんら、全米各地の「兵士の母」の日常にカメラをすえて、イラク戦に対する草の根の人々の思いを探る。

となっていて、「今さらシーハンさんかよ。既に他局でもさんざん紹介されているじゃん」と思ったのだが、実際には、資料映像以外に独自のシーハンさんインタビューなどは全くなかった。個人的には、シーハンさん以外の市井の人々を取り上げるのは全くもってグッジョブだと思うけれど、公式サイトの煽り文、特に最後の1文辺りはJAROに訴えられてもおかしくないだろう。

『BSドキュメンタリー』「“不法移民”に揺れる町〜移民の国・アメリカのジレンマ」
2006/11/11初回放送、50分、撮影:手嶋俊幸、コーディネーター:福原顕志、取材:中島僚子、ディレクター:佐野岳士、プロデューサー:田嶋敦、制作統括:佐橘晴男/坂上達夫、共同制作:NHKエデュケーショナル、制作・著作:NHK/東京ビデオセンター
放送前の仮タイトルは「「不法移民狩り」に揺れる街〜アメリカ・コスタメサ」。流石に「不法移民狩り」は煽り過ぎだと思ったか。内容は11月8日に放送された『BS世界のドキュメンタリー』「それでもアメリカに行きたい〜増加する危険な国境越え(Crossing Arizona)」と被ることなく、うまく独自に続編を作ったものだと感心する。「イリーガルだがクリミナルではない」というスローガンはとても良い。
基本的には移民問題を取り上げているわけだが、米国の草の根民主主義の実態を描写したドキュメンタリーとして見ても面白い。人口11万人、市議会議員5人、議員から互選でパートタイムの市長、アラン・マンスール現市長は週4日刑務所で看守をしている。市議会は月2回。ふと思ったことだが、市長が自身の政策を組み立てる上で、看守をしていることで得られた秘密情報をベースにしたら、公務員機密漏洩に問われたりするのだろうか。公職を2つ兼任し、片方の職務権限ではアクセス出来るデータベースに、もう片方の職務ではアクセス出来ない。統計上の数字は利用出来ても、具体的な個人名を明かしてはならないとか。

『BSドキュメンタリー』「ワシントンを奪還せよ〜帰還兵たちの中間選挙
2006/11/11初回放送、50分、撮影:Brent Renaud/Craig Renaud、取材:遠藤長光、プロデューサー:木村和人、制作統括:佐橘晴男/薮並整司、共同制作:NHKエンタープライズアメリカ、制作・著作:NHK
クレジットでは「撮影」のみになっているが、「ディレクター」がいないことから、傑作「アーカンソー州兵」シリーズを制作したルノー兄弟の最新作と考えれば良いのか。
放送前の仮タイトルは「ワシントンを奪還せよ〜アメリカ・退役軍人たちの中間選挙」。番組で取り上げた3人の立候補者のうち、イラク戦争の帰還兵はタミー・ダックワース氏(イリノイ州第6選挙区)だけで、エリック・マーサ氏(ニューヨーク州第29選挙区)、リック・ボラノス氏(テキサス州第23選挙区)はベトナム湾岸戦争に従軍した退役軍人。その意味では本タイトルはイラク帰りの元兵士が沢山出馬したような印象を与える。少しセンセーショナルさを狙い過ぎかもしれない。
コスタメサでは市議選の活動をみたが、今回は下院議員選挙のドキュメンタリーとしてもみることができる。勝てそうなダックワース氏には民主党も大金を投じるが、泡沫なボラノス氏には援助もないという選挙の非情さも映し出されていたが、検索するとダックワース氏は民主党の予備選を勝ち抜いたという記事にあたる。ボラノス氏の選挙区も早めに予備選を開いて民主党統一候補を決めておけば、ボラノス氏があそこまで引っ張られることにならなかったのではないか。おそらく同じ党でも州毎に異なった選挙制度なのだろう。
電話100件以上掛けているという話からふと思いついたのだが、ミニ集会やら資金パーティで中立っぽい出席者から携帯電話の番号を書いてもらえば、後は同一会社の携帯電話からいくらお願いの電話を掛けても定額(或いは無料)か。IP電話とか普及したら日本の選挙運動も若干安く出来るかも。

『地球特派員2006』「アメリカ 格差社会の底辺で〜ワーキング・プアの現実」
2006/11/12初回放送、50分、司会:金子勝慶應義塾大学経済学部教授)、特派員:江川紹子(ジャーナリスト)、撮影:江袋宏、取材:小野ちひろ、ディレクター:安東雄一郎、制作統括:堅達京子/佐藤謙治、共同制作:NHKエンタープライズ、制作協力:えふぶんの壱/林憲司、制作・著作:NHK
放送前の仮タイトルは「変貌するアメリカン・ドリーム〜ワーキング・プアーの現実」。どうしても「格差社会」という言葉が使いたいらしい。
大学院出て国立がんセンターに就職していたのがリストラでワーキングプアに転落する女性の話、保険に入っていなかったために心臓バイパス手術の費用約1200万円が自己負担になった男性の話。近い将来の日本の姿、というか数年後の自分の姿。
聞き手の金子氏の方が現代米国社会に関する資料・データを繰り出し、特派員の江川氏がそれを「なるほど」と頷いて聞くというスタイルには少し違和感があった。データは金子氏が補強するのならば、江川氏にはもっと生で見た事に対する感想を話して欲しかった。

『BSドキュメンタリー』「高校生を獲得せよ〜米軍リクルート最前線」
2006/11/18初回放送、50分、取材:酒井智代、撮影:矢吹啓司、コーディネーター:田村桂子、ディレクター:尾崎竜二、プロデューサー:丸山雄也、制作統括:佐橘晴男/松居径、共同制作:NHKエンタープライズ、制作・著作:NHK/駿、この他「資料提供」に堤未果
放送前の仮タイトルは「米軍に勧誘される高校生たち〜ニューヨーク・軍と市民の攻防」。確かに内容は、軍による高校内でのリクルート活動に反対する市民活動よりも、実際に勧誘される高校生の心情に焦点をあてていた印象。
米国の貧困層発展途上国と考えれば、貧しくて優秀な若者を鍛えるために士官学校に放り込んで規律や公徳心を叩き込むのも、イラク戦争を抜きに考えれば手法としてアリなのかもしれないが、問題は軍隊から帰ってきても大学へ行けないという騙しを行っていること。或いは、優秀な貧困層を引き上げる手法ならば、最初から大学へ行ける奨学金を出せよ、という話であること。システムからして、貧困層の若者を軍隊に頼らざるを得ないようにしておいて「本人が自ら志願した」とは何事だ、という話になる。