パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS1『BSドキュメンタリー』「忘れられた戦場〜アグネス・チャン スーダンからの報告」

2005/6/11放送、50分、取材協力:日本ユニセフ協会、撮影:外山泰三、構成:米本直樹、プロデューサー:矢島良彰、制作統括:山崎秋一郎/中村雅人、共同制作:NHKエンタープライズ、制作・著作:NHK/テムジン
基本的に、公式サイトの文章を自分のところに全文コピペしたりはしないのだが、今回はちょっと面白かったので、引用させて頂く。

イラク戦争や巨大津波による大災害の陰で「世界最悪の人道危機」(国連)と言われる民族大虐殺がアフリカで進行している。22年間にわたって内戦を繰り広げてきたスーダンでは、今年1月、政府軍と反政府勢力(SPLA)との間で停戦協定が成立、和平達成にむけPKOが検討されている(日本の自衛隊による人道援助も考慮されている)。そのスーダン西部のダルフール地方で、政府軍に支持された「ジャンジャウィード」(武器を持ち馬に乗る人)というアラブ系民兵集団が、アフリカ系住民の村々を焼き討ちにして虐殺、レイプ、強奪を繰り返し、これまでに7万人(ユニセフ発表)が殺害された。恐怖のあまり150万もの人々が村を捨て、20万人は国境を越えて隣国チャドに流入した。難民たちは食糧を絶たれ大規模な飢餓と疫病の危機に直面している。この事態に、国際機関やNGOは緊急支援を展開しているが、派遣スタッフ、救援物資、活動資金の全てにわたって大きく立ち遅れている。番組では、日本ユニセフ協会大使のアグネス・チャンに同行、悲劇の構造を明らかにするとともに、難民が直面する危機の現状を伝える。
http://www.nhk.or.jp/bs/bsdoc/bsdoc.html

国連が「今世紀最悪の人道危機」と呼ぶ深刻な事態が、アフリカ・スーダン西部のダルフール地方で進行している。アラブ系遊牧民民兵集団「ジャンジャウィード」が暗躍し、焼き討ちや略奪、虐殺、レイプなどの非人道的行為は、とどまるところを知らない。番組では、日本ユニセフ協会大使のアグネス・チャンに同行、ダルフールの最新情勢を報告する。被害により村を捨てた避難民は180万人、これまでに十数万人が殺されたという。現在、増え続ける避難民の数と治安の悪化により、人々が逃げ込んだキャンプでの支援活動は困難を極めている。避難民たちは口々に襲撃の恐ろしい実態を語る。村で一体何があったのか? なぜこのような事態が続いているのか? アグネスは、9万人が暮らす巨大な避難民キャンプや、襲撃を受けた村を取材し、数々の悲惨な現場を目の当りにする。さらに取材班は、紛争の当事者である反政府組織や、民兵集団「ジャンジャウィード」とも接触、彼らの主張を聞くことができた。暴力の悲劇がつづくダルフールの現実に迫るドキュメント。
http://www.nhk.or.jp/omoban/k/0611_11.html

ともにNHK公式サイトだが、上が『BSドキュメンタリー』サイトで、下は『今週の主な番組』から。同じ1枚のプレスリリースを要約した双子の兄弟というよりかは、同じ作品をみた2人の人間が書いた従兄弟という印象。同じ番組に対して同じ局の人間が別々に紹介記事を書くとは余程仲が悪いのかと思ったが、どうやら下の文章は制作会社テムジンが書いた記事に少し手を加えたもののようだ。

国連が「今世紀最悪の人道危機」と呼ぶ深刻な事態が、アフリカ・スーダン西部のダルフール地方で進行している。政府と反政府組織の紛争を発端に、アラブ系遊牧民民兵集団「ジャンジャウィード」が、焼き討ちや略奪、虐殺、レイプなどの非人道的な行為を繰り返しているというのだ。被害により村を捨てた避難民は180万人、これまでに7万人が殺されたという。番組では、日本ユニセフ協会大使のアグネス・チャンに同行、ダルフールの現状をリポートする。村で一体何があったのか? なぜこのような事態が続いているのか? アグネスは、9万人が暮らす巨大な避難民キャンプや、襲撃を受け深刻な被害を受けた村を取材し、悲惨な現実を目の当りにする。今回は、紛争当事者である反政府組織SLAや、民兵集団「ジャンジャウィード」とも接触。ダルフールで起こっている悲劇の構造を明らかにするとともに、避難民たちが直面する危機の現状を伝える。
http://www.temjin.co.jp/index.htm

『BSドキュメンタリー』側が「スーダン情勢」に重きを、制作会社側は「アグネス・チャンが伝える」に重きを置いているように読めるがどうだろうか。

チャン氏が虐殺のあった村を訪ねたシーンで、国連の案内人が壁のシミを指しながら「ほにゃららほにゃらら…Brain」と言っている映像に重ねて、字幕に「これは血が飛び散った跡です」と敢えて和らげた表現を使っているのに、それを聞いたチャン氏が日本語で「子供たち…ここに立たされて、処刑されたみたい…ダァァってやられたんだって…(壁を指しながら)この辺は染みが、血とか脳味噌…」と口に出していた。母国語訛りの外国語を貶めるつもりはないけれど、深刻な場面とユーモラスに聞こえる口調との対比が、ちょっと面白かった。チャン氏はBoAさんと同じ話し方をする。
この作品で個人的に好きな場面は、エンディング前に少し流れたチャン氏が難民キャンプの子供たちに「結んで、開いて…」を教えているところだ(余談というか自分の偏見だろうが、アフリカの人は聞いた音を耳でコピーする能力が高い気がした)。チャン氏の人間性というか人を惹き付けるオーラというものが感じられ、且つ希望も湧いてくる素敵なシーンだったけど、制作者は演出上悲惨な難民像の方が重要だと考えたのだろう。

難民キャンプや無人になった村の跡を訪れた時はチャン氏が語り部らしく沢山映り込んでいるのだけど、民兵集団と接触した場面には背中すら映っていない。あくまで推測だが、チャン氏はこの取材に同行していないと思う。(もちろんイスラム系の人々を相手にする場合、女性が視界に入る場所にいることが不利になると考え、身を隠していた可能性もあるだろうし、その他素人が気付かない事項があるのかもしれないが)この邪推を元に、上に引用した『今週の主な番組』の文章をよく読むと、

アグネスは、9万人が暮らす巨大な避難民キャンプや、襲撃を受けた村を取材し、数々の悲惨な現場を目の当りにする。さらに取材班は、紛争の当事者である反政府組織や、民兵集団「ジャンジャウィード」とも接触、彼らの主張を聞くことができた。

と、1文目と2文目で主語を変えることで、「アグネスが同行したなんて一言も書いてないよ」と言い訳出来る文章になっている。誤解されないように念のために書いておくと、民兵集団に接触しなくても今のダルフール地域へ行くだけでも危険だし、勇気のいる行為である。ユニセフ親善大使の仕事はあくまで難民キャンプの現状を把握すること等で、危険な取材に同行するべきとも思わない。また知名度を持つ人間が多くの人に現状を知ってもらうために、こうした活動に力を入れることは素晴らしいと思う。それでも、この場面に重ねられた「私たちは遠くから撮影を続けました」というチャン氏のナレーションに違和感を受けた。「私たち」とは誰か?

制作者が伝えたかったのは「アグネス・チャンの活動」なのか「ダルフールの現状」なのか。チャン氏を難民キャンプに置いて、別取材で民兵集団と接触したのは、その価値があると制作者が思ったからではないのか。そう思ったのならば、正々堂々と「アグネス・チャンの活動」パートと「ダルフールの現状」パートを視聴者に分かる形で区切っても良かったのではないか。世の中には、自分のように番組タイトルにタレントの名前が付いているだけで避ける偏屈な人間と、番組タイトルにタレントの名前が付いていると興味を持ってくれる素直な人間がいる。前者はNHK-BS1で『BSドキュメンタリー』を見るし、後者は日曜の夕方に民放でやっているヒューマン系・感動系の紀行番組を見たりする。珍しく「制作・著作」のところに制作会社の名前があるので、てっきりテムジンさんはチャン氏を主役にもう少し柔らかい内容の作品をもう一つ作るのかと思ったくらいだが、テムジンさんのサイトをみると、チャン氏のユニセフ活動に同行しNHKで放送した作品を1999年から作っており、この強固な信頼関係から推測するに今回のネタはこの放送でお仕舞いということなのだろう。色々と惜しい気がする。