パロップのブログ

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海外ドキュメンタリー

BS1『ワールドドキュメンタリースペシャル』「アウシュビッツの恋(A Love in Auschwitz)」(8/19放送分、独2001年、スピーゲルTV制作)。「アウシュビッツ収容所を脱出した男女が39年後に再会する物語」と番組サイトには書いてあるが、ほとんどがアウシュビッツでの生活話・脱出話で、現代の再会話はほとんどなし(3分くらいか)。同時期に脱出したもう一組のポーランドユダヤカップルが密告された話を結構大きく取り上げていたのは、負け組のポーランド人とユダヤ人が、実際には協力しあったりせず、お互い悪感情を持っていたんだぞ、と声を大にして言いたいドイツ人の制作だからか。こういう「(もちろん悲惨なのは確かに悲惨なのだが)アウシュビッツは意外にルーズだった」的な話を公に語るのは、身内のユダヤ人から批判が出そうな気もする。よく「ドイツ人の見張りがタバコと引き替えにデートを見逃したり」といった話が語られたりするが、ユダヤ人圧力団体にとっては、ドイツ人官吏が買収されたりする弱くて人間的な存在であるよりも、完璧かつ非情な方が都合が良いはず。本当に怖いのは、ついさっきまで多少のジョークも言い合っていた2人が「私殺す側、あなた殺される側」という役割によって簡単に銃殺出来るシステムだと思うのだが、憎しみは敵を非人間的に描きたい気にさせる。番組のラストは1983年にテレビで脱走男ユーレック・ビエレツキがアウシュビッツ脱出体験を語った処、それを見た脱走女ツィラ・ツィブルスカがそれを見て連絡し再会、となった。……ネットで検索した処、Thilo Thielkeという人の原作本が紹介されていた。それによると、 Thielke(1968年生まれ)はスピーゲルTVのエディター(90-97年)で、この物語の取材(恐らくは真実かどうかを証明できる証人探しの旅)のため4年間、ポーランドにいたらしい。多分Thielke少年が15歳の時、テレビでこの再会の模様を見て、いつか良いディレクターになって権限持ったらこれの真相を探るぞ!と誓ったのだろう。ちなみにNHKサイトでのポーランド人男性はJurek(ユーレック)だが、原作を紹介する英語サイトはJerzy(イィルジー)。イィルジーは1940年に18歳で政治犯としてつかまったことなどが分かった。
BS1『ワールドドキュメンタリースペシャル』「戦争最前線に生きる子供たち(Child soldiers)」(8/20放送分、2002年豪・エレクトリックピクチャーズ、制作:アンドリュー・オギルビー、構成:アラン・リンゼイ、編集:デビッド・フォスディック)。「スーダンウガンダミャンマー、コロンビア、シエラレオネなどの戦地で、兵士として戦争の道具にされてきた子どもたちを訪ね歩く」(NHKサイトより)。想像だが、まず「子供を戦争の道具にするなんて許せない!」という訴えたい思想を持つオージーの人権団体があり、その主張に沿ってスーダンウガンダミャンマー、コロンビア、シエラレオネなど現地で悲惨な例を取材し、それを並べただけ。言っていることは正しいし、素晴らしい運動だと思うが、例えば「ウガンダのこの民族は、500年も前から少年を戦闘に参加させる慣習があるのかも」といった想像力がなさすぎる。念のため書くが「伝統や文化だから仕方がない」といっているわけではなく、自分の言いたい思想のために事実を貼るのは、ドキュメンタリーではなくプロパガンダだろう。中学校くらいで道徳の時間に生徒に見せて「おまいら、同い年の子でこんなに大変な暮らしをしている所もあるのに、髪染めてバイク盗んでいる場合じゃないですよ」と説教する材料に使うのが最も有効だろう。そして授業中居眠りしているドキュンを余所に、数人の「純粋真っ直ぐ君」を福祉活動にでも勧誘出来れば、そして教師がそれをうまく動機付けして良い方向に誘導出来れば、口だけ達者で何も行動しない引き籠もりの皮肉屋になるよりも、余程素晴らしいことだろう。斜に構えない純粋さって必要だと思う。
BS1『ワールドドキュメンタリースペシャル』「パレスチナ少女〜交流の記録(Frontiers of Dreams and Fears)」(8/22放送分、2001年・アメリカ/パレスチナ、ITVS/CPB制作、プロデューサー:メイ・マスーリ、第10回地球環境映像祭最優秀賞受賞)。パレスチナ難民のうちレバノンとヨルダンに住む2人の少女の記録。とにかく一般人の生活を足下から追う「正しくドキュメンタリー」な作品で、フランス系の放送局が得意にしている手法。背景説明がほとんどなく、常に生活の時間しか描かないから何に反応してそういう行動に出ているのか、分かりにくい。イギリスBBCなんかはマクロ→ミクロ(「戦争始まりました」→「子供腹空かして泣いている」)を冷静に行き来する、感情のある人が作っているとは思えない傑作ドキュメンタリーを生むことがあるが、こちらは感情に訴える芸術系のドキュメンタリー。情報ヲタの私としては正直あまり面白くなかった。今、ネットで調べたらフィルムで撮られた映画だった。そりゃ芸術くさいのも無理ない。