パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

7月のお薦めドキュメンタリー

愛読する『デジタルTVガイド』を参考にしながら、公式サイトも眺めつつ、個人的に気になるやつをピックアップ。このダイアリー自体は読んでいる人が少なくても、こうしてブログに書けば検索やら何やらで案外と情報が流通するものらしいので。
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1日、『BS世界のドキュメンタリー』で「ダーウィンの悪夢」前後編が再放送される。初回放送の時は話題にもならず、ひっそりと放送されたらしく、自分も見ていないし、流行りに乗せられて映画館まで行くのもどうかと思ってスルーしたが、ドキュメンタリーの思惑から当事国の抗議までを耳に入れつつ、いま敢えて見るというのもあり。7月6日にDVDが発売になるからその前にもう一度、ということなのか。DVDの説明だと上映時間112分だがWikiをみると107分。50分×2回=100分だと多少カットされているようだが、TVの場合エンドロール等を省けばこのくらいか。
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12日にBS-hiで放送予定の『ハイビジョンスペシャル』「わが青春のナヴォイ劇場〜日本人捕虜が建てたウズベキスタンオペラ座」は2002年1月に放送された番組の再放送のようだが、検索してもさっぱり情報がない(ナボイで検索してもそれなり)。30日には何の偶然かBS-iでも『i's EYE』「シルクロード秘話〜劇場を建てた男たち」(http://www.bs-i.co.jp/app/program_details/index/KDT0502800)―これは2005年11月が初回放送のようだ―が放送されるので、双方を見比べつつクレジットも記録出来れば幸い。
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14日の『BSドキュメンタリー』「ワルシャワ発“ユーロ号”〜EU統合 家族の“夢”と祖国の“現実”」は、4月28日に放送予定だったにもかかわらず、その後は音沙汰無しだった「ポーランドから“人が消えた”」の振り替え放送だと推測される。3カ月も放送が遅れた理由も邪推しながら見るのも楽しい。ちなみに幻の放送予告は以下の通り。

満員の乗客を乗せてターミナルを出発する長距離バス。ポーランドの各都市から、ロンドンのビクトリア駅に向かうバスは、いまヨーロッパで最も乗車率の高いバスだと言われている。定員55名、乗車時間は30時間あまり。乗客はすべて職を求めてイギリスを目指すポーランド人たちだ。乗り合わせているのは、医療環境のいい場所で働きたいと希望する医師や会社をたたんだという建築工事の技術者、農場での仕事を求める片言の英語も喋ることができない青年など。車内には、様々な夢があふれる。2004年のユーロ拡大により、国境を越えた移動が自由になったヨーロッパ。大量の人々の移動は、その母国に、そして移り住む先の国々に様々な歪みを生んでいる。特に顕著なのが、人が消え抜け殻となりつつあるポーランドと、彼らポーランド人が押しよせるイギリスだ。華やかな看板とともに始まったEU統合。その下で、人々の暮らしは、その人生はどのように変わろうとしているのか。番組では、ポーランドからロンドンを目指す移民バスに乗り合わせた人を追い、激変する彼らの暮らしのなかからEU統合を問う。

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何といっても7月で最大の注目は、16日から4夜にわたって放送される『BS世界のドキュメンタリー』「岐路に立つアメリカのニュース」シリーズだろう。本国では今年2月13日から4週にわたって放送された番組をいち早く翻訳・放送するところからもNHKの気合が伝わってくる。

アメリカPBSが、ピューリッツア賞受賞歴のあるローエル・バーグマン(元ニューヨークタイムス記者)をリポーターに、ブッシュ政権高官やボブ・ウッドワードなど米メディアの重鎮80人以上の証言をもとに、アメリカのニュース報道の問題点を検証した4回シリーズ。
NHK公式サイトより〕

というわけで、NHK独自の制作ではないが、自分の事は棚に上げて他人の振りを検証するのが得意なNHKらしい好企画。元番組の公式サイトは以下の通り。
http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/newswar/preview/
ローエル・バーグマンで検索→どうやら映画『インサイダー』のモデルになったローウェル・バーグマンのことらしい→アル・パチーノで検索→Al Pacinoのimdbへ→"The Insider"の役名からLowell Bergmanを拾って検索、でようやくURLへたどり着く。何でわざわざ一般に流通しているローウェルではなくローエルと表記するのか。利便性への考慮が欠片もないのがNHKクオリティ。テレビガイドをみると仮題は「アメリカニュース戦争」になっている。原題は"Newswar"だし、こっちの方がインパクトありそうだけど。公式サイトをみると元は270分あるみたいだけど、これを50分×4回で放送するのはもったいないような気もする。
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22〜24日の3回にわたってBS-hiハイビジョン特集』「シリーズ青春が終わった日」は、

いつの時代にも、懸命に青春の炎を燃やした若者がいた。しかし、その青春はそれぞれの時代の中でいつか必ず「終わり」を迎える。夢が現実に破れ、詩歌が散文になり、恍惚と不安がリアルな生活にとってかわる瞬間。そのとき、彼らは何を思い、どのような記憶を胸に刻みつけるのか? このシリーズは、太平洋戦争、全共闘運動、そしてバブルといった日本の現代史の中で、懸命に生きた若者たちの青春の終わりを追跡する。それはいまの「日本」の精神が形作られてきた自画像でもある。

ということで、切り口で勝負するタイプのドキュメンタリーとしてディレクターの腕が問われそう。同時代を生きていない人間にとっては「その思い入れが何なの?」と鼻白む思いになる危険がある。特に2夜と3夜のような感傷的な内容になり易い素材に対し、取材対象者と同世代の人間がディレクターをやると、「自分が生きた時代こそ特別な時代」感がたっぷりという悲惨なことになるのではなかろうかと心配になる。まあ公正中立より当事者感たっぷりのドキュメンタリーの方が面白いという人もいるけど。いずれも90分。
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以下、余談。
論座』の7月号に「他者のステレオタイプ化をどう越えるか―錯綜する映像イメージ」と題して村上由見子(著述家)×金平茂紀(ジャーナリスト)×ナジーブ・エルカシュ(映画研究者兼ジャーナリスト)3氏の鼎談が掲載されている。その中で金平氏が最近見て面白かったドキュメンタリー映画としてエジプトの女性ドキュメンタリー監督の作品を上げると、村上氏が米国ではDVDも発売されているが日本では未公開であると応える箇所がある。
恐らくその映画は、2004年5月にNHK-BS1で放送されたヌジャイム監督の『CONTROL ROOM』(http://d.hatena.ne.jp/palop/20040608#p1)だろうと思われる。どうやら一部カットした不完全版だし、確かに映画館では公開されていないから、放送の事実を知りつつも敢えて「日本では未公開」と言ったのかもしれないが、金平・村上両氏の発言からは「米国を拠点にジャーナリスト活動をしている知的な我々からすると、日本って文化の発信受信が弱い国だよね」というそれこそステレオタイプな見方を感じた。映画館/DVD/公共放送/商業メディア/市民集会など、良質の情報を発信するメディアだって国や風土によって個性や違いがあるはずなのに、自分が詳しく知っている国を基準にして他国を比較することこそ他者のステレオタイプ化への第一歩ではないだろうか。
日本では良質のドキュメンタリー映画が映画館で上映されないかもしれないし、DVDにならないかもしれない。だが、日本にはNHK衛星第一という良質のドキュメンタリーを淡々と放送する一風変わったメディアがあるのだ。日頃NHKの悪口ばかり書いている自分だが、その事は強く言っておきたい。