パロップのブログ

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NHK総合『にっぽんの現場』「取り戻せるか職場のきずな〜会社運動会再び」

2007/2/17再放送(2006/12/27初回放送)、43分、撮影:矢倉亜希子、ディレクター:森田超、制作統括:吉光賢之、制作・著作:NHK
昨年末の放送直後からブログ界を震撼させた作品。以来、気になっていたが、まさかの再放送でチェック出来て良かった。
社内の一体感を高めるために3億円の費用をかけて職場対抗運動会を行う会社の話だが、子会社や派遣や請負の社員を強制的に参加させていることから「頭のおかしい会社」に認定されてしまうのは仕方が無い。「正社員をリストラし、いつでもクビを切れる人間ばかり集めて『愛社精神がなくなっている』もクソもない」「派遣社員を無給で時間外まで拘束するな」という会社と運動会への根本的な批判から、「練習を始める前、顔合わせの段階で名札を付けるとかしろよ」「『女の子達』と一くくりにして説教せず、一人ひとりと向き合ってコミュニケーションとれよ」「普通は若者組の中からまとめ役みたいなのを作るものでは?」など、実地マネジメント技術上の批判まで様々あるだろうが、ここではそれは問わない。分かりやすくするため番組ではカットされている細部があるだろうから。
運動会を開いた会社の意図はともかく、番組としては、派遣女性が職場で新しい作業を覚えるために定時前から出社している姿を撮ることで、運動会の練習はやる気無しだけど、それは不真面目な若者だからではなく、練習が理不尽だからであることを説明する。練習中にモチベーションを下げる説教を連発するOBに「運動会が会社の一体感を高めるのに役立っていた時代があったのだ」と語らせる。間に挟まれた中間管理職のおっさんも職場での姿や飲み屋での姿を撮ることで多面的な人格を表す。誰かを悪者にせず、それぞれの立場にそれぞれの理由があると思えるように制作してあったと思う。「ジャーナリズムならば批判的な視点を」というならば、理不尽な目にあっている若い女性からの視点をもっと汲み取って欲しいところだろうが、仮にNHKの側から「この世知辛い21世紀に会社運動会を復活させたそうですが、興味深いので密着取材させてください」とお願いしたのだとすれば、会社を批判的に描こうものなら「期待権の侵害」で訴えられてしまうので、玉虫色の主張になるのも仕方ない。
登場する誰もがそれなりの言葉を発し、それなりの理由を背負った生きている人間に見えるなか、若い正社員男性達はほとんど言葉を発しない。番組の中で彼らの一人が女性陣に向けて発した言葉は、レース直前の「1回しか本番ないので、まあ頑張りましょう」だけである。言葉が無い。つまり彼らは番組の中で人格を与えられていない。番組構成の都合から人格が与えられなかったのか、実際にその場で空気だったのか、それは分からないが、番組を見ていた年配者なら「元気のない若者だ」と思うだろうし、番組を見ていた若い女性なら「上から言われないとコミュニケーションもとれないし、キモ過ぎ〜」と思うだろう。番組の制作者は「彼らには主張がないから取り上げようがなかった」と言い訳するかもしれないが、彼らには本当に何も主張がないのだろうか。現代において男性/正社員というのは本人が望むと望まざるに関わらず「恵まれた加害者」である。男性正社員が一緒に練習する派遣女性に向かって「もっと一生懸命練習しようよ」と言うだけで暴力である。傲慢である。そして彼らは無自覚な年配者と違って加害者であることに自覚的である。そんな彼らのいたたまれ無さを理解しないメディアを前にして、彼らは何を言えば良いのだろう。団塊ジュニア男子が社会から撤退するのはしごく当然である。