パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

日本の戦争関係

『Nスペ』「見過ごされた被爆〜残留放射線 63年後の真実」
2008/8/6初回放送、50分、資料提供:高橋博子/齋藤紀 他、取材:宮脇麻樹/田中意澄、撮影:小嶋一行/豊島章、リサーチャー:柳原緑、ディレクター:松丸慶太/城秀樹、制作統括:湯澤克彦/山本智、制作・著作:NHK広島
厚生省で、1950年代の原爆医療法制定の時には「疑わしい人は全部救済するようにしよう」だったのが、80年代に認定基準を定める際に「科学的な物差しが求められる時代になった」と言い訳しているのは感じ悪いが、同じ50年代に厚生省は水俣病に対してまともな対応をしていなかったわけだし、省全体に同じような雰囲気があったのか、担当している案件毎に分かれている課/班で空気が違っていたのか、或いは個人の裁量が割と許されていた時代だったのか。一つの病気を扱った縦の歴史とともに、厚生省が同時代の他の病にはどう対処していたかという横の関係にも目配せした概説があると、より多層的に時代の空気を感じられるかもしれない。

『Nスペ』「解かれた封印〜米軍カメラマンが見たNAGASAKI」
2008/8/7初回放送、50分、資料提供:坂井貴美子/大原哲夫、撮影:俣野周作、コーディネーター:佐々木順子、ディレクター:松本卓臣、制作統括:田中剛志、制作・著作:NHK福岡
「ジョー・オダネル」で検索したら、TBSが2005年にドキュメンタリーを制作していた(http://www.tbs.co.jp/program/genbakunonatsu.html)。もちろん未見。先行作品があると方向性を変えないといけないのが芸術の常で、こちらは父と息子のちょっと良い話を絡めたのが制作者の意地とセンス。
ジョー・オダネル氏への嫌がらせの中で「アメリカが嫌なら日本へ行け」という手紙があったと紹介されていたが、自称愛国者の言動はどこも同じだと思った。

「埋もれた地下兵器工場〜長崎・被爆した魚雷工場は語る」
2008/8/7放送、45分、資料提供:奥住喜重/工藤洋三 他、撮影:和田圭太、取材:岩本善政、コーディネーター:イ・スンヨン(李丞鎔)、リサーチャー:中村英雄、ディレクター:吉崎健、制作統括:嶺野晴彦/岩下宏之、制作:NHKプラネット九州、制作・著作:NHkNHK福岡)
どういう番組枠で制作されたのは不明だが、岡山では夜中に放送していた。「住吉トンネル工場」で検索すると、ローカルではそれなりに知られたニュースだった。

『Nスペ』「調査報告〜日本軍と阿片」
2008/8/17初回放送、60分、資料提供:山田豪一/江口圭一/及川勝/天羽幸子/山本常雄/二反長節也/松岡進吾 他、取材協力:笹本征男/森松俊夫/倉橋正直/中生勝美/小林元裕/蘇南芬 他、リサーチャー:ウィンチ啓子、コーディネーター:楊昭、撮影:落合厚彦、ディレクター:中村直文、制作統括:藤木達弘、制作・著作:NHK
下手糞な素人をナレーションに使っていることからして、堅い歴史番組を一般人に見てもらうためにミステリー仕立てのエンタメ作品の線を狙ったのだと推測されるが、恐らく野心的な実験作にして失敗作。史料による学術的な歴史記述とTVドキュメンタリーとして成立するために必要な視覚効果を意識した現地取材映像が噛み合っていない。阿片をめぐる国際政治の中で犯した外交上のミスと、「民間人に阿片を売りつけて軍事資金にするなんて倫理的にどうよ?」という視点が混ざっている。そんなこんなでストーリーが分かりにくい。「日本の戦争は阿片資金で成り立っていたんですよ!」という事が伝われば、他には何も要らないということかもしれないが。
里見甫の東京裁判尋問記録という恐らく新発見でも何でもない公刊記録があり、番組中に出てきた森久男教授のように学術的に軍政下の政治経済を研究している人がいるのだから、そうした先行研究に敬意を払った上で、初めて取材中に新発見があったのならば、それを誇れば良いと思うのだが、出てくるもの全部が「初めて分かった!」「初めて見つかった!」では、見ている方は逆に分からない。
南米や中央アジアの反政府勢力が麻薬を資金源にしたり、アフリカでは政府と反政府勢力がレアメタルを巡って陣地取りをしたり、そういうのと重ね合わせて見た。

ETV特集』「シリーズBC級戦犯 第一回 韓国 朝鮮人戦犯の悲劇」
2008/8/17初回放送、90分、資料提供:内海愛子 他、コーディネーター:チョン・ミョンギュ、撮影:地主浩二、ディレクター:渡辺考、制作統括:塩田純、制作・著作:NHK
ETV特集』「シリーズBC級戦犯 第二回 “罪”に向き合う時」
2008/8/24初回放送、90分、資料協力:林博史内海愛子 他、撮影:石原徹也、ディレクター:大森淳郎、制作統括:塩田純、制作・著作:NHK
2008/8/13に放送された『ハイビジョン特集』「BC級戦犯 獄窓からの声」も同じ素材の作品らしいが未見。
大本営「納期までに間に合わせろ!」→鉄道隊「労働者を沢山集めろ!」→捕虜監視役「病気でも働け!」→捕虜「今に見ていろ!」。で、捕虜が死んだら責任を負うのは捕虜監視役という。現代の派遣先経営者→派遣先人事部社員→派遣元→派遣社員に似てなくもない。
「広村鶴来」で検索したら、昭和30年の衆議院議事録(http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/022/0388/02206090388020a.html)がヒットした。質問している田原議員はいかにも人権派という感じだし、法解釈と上辺トークの現代よりも同情も差別感情も丸出しで人間味に溢れている。

○辻(政)委員 私のところへも巣鴨に在監中の朝鮮人が、三十万円の金をよこせとか何とか陳情を持って参りました。いろいろその内情を探ってみますと、次のようなことが出てきている。それは巣鴨の戦犯の人たちは、大部分は非常にまじめな人たちですが、ごく少数の赤色グループもおりまして、それがかなり朝鮮人を扇動しておるという事実であります。朝鮮人のりっぽな人は、少しも差別をしないで、そうしてむしろ日本人よりもあたたかい気持でもって国がめんどうを見てやるということは、趣旨においては異存がありませんが、この運動の影に糸を引いておる者があるということを、十分御承知の上善処していただきたい。

平成の世にこんなざっくばらんな本音トークをしていたら速攻で叩かれると思うが、それはともかく「辻政信、お前が言うな! 誰のせいでこの人達が戦犯にされたと思っているんだ!」と当時でもつっこまれなかったのだろうか。

『Nスペ』「こうして“核”は持ち込まれた〜空母リスカニの秘密」
2008/11/9初回放送、50分、コーディネーター:野口修司、リサーチャー:柳原緑/ウインチ啓子、撮影:栗谷川勝行、ディレクター:西脇順一郎、制作統括:春原雄策、制作・著作 NHK広島
「オリスカーニ」というイタリア系の将軍か何かにちなんだ名前かと思ったら、スペルはORISKANYだった。
「初めて語った」「初めてカメラが入った」を連発するドキュメンタリーは、それだけで駄作認定するべきかも。
「冷戦時代、日本が核の傘に守られていたことなんて常識じゃん」と斜に構えて新しい史料に基づいて米国が冷戦時に考えていた東アジア戦略の全体像を描き出すべきか、それとも実直に「当時、空母は原爆を積んだまま入港していたのですね」というある意味些細なことだが重要なことをカメラの前できちっと証言させることこそがジャーナリズムの役割なのか。難しいところ。

『Nスペ』「引き揚げはこうして実現した〜旧満州・葫蘆島への道」
2008/12/8初回放送、50分、資料提供:中田整一 他、取材協力:加藤聖文/大澤武司、撮影:池畑道佐/岩永裕二、リサーチャー:西原裕貴、コーディネーター:柳原緑/ナンシー蘇、取材:佐藤充則/平野愛、ディレクター:萬はじめ/梅原勇樹、プロデューサー:大谷龍司、制作統括:塩田純/佐々木直人、制作:NHKエデュケーショナル、制作協力:アジアンコンプレックス、制作・著作:NHK
満州で逃避行をした中島多鶴さんの追憶の旅を縦軸、引き揚げを巡る国際的な駆け引きを横軸にして、ミクロとマクロをうまく組み合わせていた。「日本軍と阿片」の制作者は見習って欲しい。ただNHKでは、中島さんのことを1989年に『Nスペ』「忘れられた女たち〜中国残留婦人の昭和」で既に取り上げたことがあったようなので、あくまで今回の焦点は裏の交渉過程を明らかにしたことなのだろう。
12/27日には『ハイビジョン特集』で110分バージョンが放送される予定。中島さんの物語を増やすのではなく、外交関係者へのインタビューや歴史的経緯の説明が増えると予想する。
ヨルダン→イラクへ戻る難民の話とかと重ねて見た。難民の帰還には資金や人員がいるのだと改めて理解する。