パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

『BS世界のドキュメンタリー』「イラク報道の真実〜BBC対イギリス政府(A FIGHT TO THE DEATH)」

2004/4/11放送、90分、制作:BBC(2004年・イギリス)、【日本語版】導入:今井義典NHK解説委員長
ハットン委員会の報告書が公表される1週間前の2004年1月21日に、BBC内『パノラマ』(リポーター:ジョン・ウェア)という番組で放送。正直、再現ドラマという形式はどうも真剣味に欠け、小芝居が可笑しく感じる。カメラ禁止の非公開だったハットン委員会の部分だけをドラマにして、後は生きている人達のインタビューで構成した方が良かったと思うが、おそらく委員会が報告書を出す前にテレビで証言してはいけないなどの法的な拘束があったのだろうと推測。それからドラマの端々に「うちの会長は馬鹿」と言いたげな皮肉が感じられた。
事の発端は、平日朝のラジオ放送(という私の日本的感覚からすればプライムタイムのテレビよりもラフな場)で、日頃からくだけたトークで人気だったギリガン記者が軽く根拠の薄い政府批判をやったばっかりに、政府とBBCのメンツの戦いへと発展し、情報源であるケリー博士を巻き込む形となったわけで、泥沼化(情報源の特定競争化)する前にBBCが「先日の放送は、情報源の発言にうちの記者が軽く脚色しました。少し口が滑りました。ごめんなさい。この件はこれにておさめてください。なお政府報告書の疑惑はそれはそれとして今後も追って行きます」とすれば済んだはず。番組をみる限り、ハットン委員会というのは、ケリー博士の自殺にまつわる調査をするために発足したと見受けられるので、BBCの全面敗北も当然。にもかかわらず、この再現ドラマでは「生物兵器の配備に関する政府報告書の捏造とBBC放送の追求」の方に重きを置いており、ちょっとずるい。何というか「国民を戦争に引きずり込んだ政府報告書のウソ」と「政府を批判するために情報を意図的に曲げた報道のウソ」は、同列に並べて比較する類のものではないだろう。それを「私たちは間違ったけど、その事を謝罪した。でも、向こう(政府)はウソを認めてないからもっと悪い」と弁明するのはズレているんじゃないか。
まともな論評は、森田浩之氏(http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/TEST06.HTML)のコラム(2003年8月14・15日付)を読めば事足りる。委員会の結論をほぼ予測しているし、BBCと記者の関係なんかも興味深い。ググったら平和を願う勢力の「ブレアは戦争犯罪人!」的文章も出てくるけど省略。
おまけ:2003年6月27日にチャンネル4に出演したAlastair Campbellのコメント「この前のサッカーくらい状況はハッキリしています」(字幕)だが、英語だと「ブラックバーン・ローヴァーズが〜」と聞こえる。
で、必死に検索して文字起こしを発見。原文(カッコ内はNHK訳)は、

Jon Snow: The answer to the question you put to the BBC, do they stand by it? The answer is yes, a robust yes.
(ジョン・スノウ「あなたはBBCに『姿勢を変えないのか』と質問した。答えは『変えない』でした)
Alastair Campbell: Excuse me, that letter is about as robust as Blackburn Rovers were when they played Trelleborgs (sic).
(キャンベル「この前のサッカーくらい状況はハッキリしています」)
http://www.channel4.com/news/2003/06/week_4/27_campbell.html

ここで重要なのは「robust」だろう。スノウ氏の「BBCの答えは〈はっきり〉とYesでした」に対応して、キャンベル氏が「状況はブラックバーンが戦った時のように〈はっきり〉している」と同じ単語を使って言い返している。多分イギリス人のウィット(比喩の対象である「robust」は「強固」とか「はっきりと」という意味らしい)。
で、その元ネタ解説を発見、

Including a marvelously obscure reference to a Blackburn Rovers vs Trelleborg UEFA Cup match from 1994-95.
http://www.simon-booth.com/blog/archives/000048.html

の事らしい。おいおい、全然「この前」じゃないやんけ。で、その試合は、

Blackburn 2-3 Trelleborg 1st0-1・2nd2-2
http://www.uefa.com/competitions/UEFACup/AllTimeStatistics/Season=1994/round=651/

ちなみにセカンド・レグの試合経過は、

18'Sutton、50'Karlsson、83'Shearer、85'Karlsson
http://www.uefa.com/Competitions/UEFACup/AllTimeStatistics/season=1994/Round=651/match=51333/index.html

であるが、結局、この比喩の意味が全然分からない。ホームのファースト・レグで1点取られた上に敗戦。セカンド・レグでは先制しながら追いつかれたものの、勝ち越してアウェイ2倍ルールで勝ち抜けと思った矢先に、再び同点にされる(このままだと合計で敗退)。残り5分で1点取るしかないという〈はっきり〉した状況で、10年後にも語り継がれる猛攻でもみせたのだろうか。謎は深まるばかり。
ちなみに、シアラー、サットンの「SSフォース」も懐かしいが、一番驚いたのは「Referee:Dick Z.G. Jol 」だ。