パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

『ETVスペシャル』「ニューヨーク・忘れてはイケナイ物語〜イラストレーター黒田征太郎」

2003/9/13初回放送、構成:濱田孝弘、制作統括:小出由美子、キャスター:黒田あゆみ
「9・11関連もの」だと思って録画していたが、そうではなく「黒田征太郎一代記」に属する。
ドキュメンタリーの定石では、ディレクター(取材者)の質問部分はカット(または字幕)し、被取材者の1人語りでVTRが構成される。1人語りというのはいわば作文を読んでいるようなもので、考えてみれば不自然な画だが、この方が構成がすっきりするのだから便宜上仕方ない。
で、黒田征太郎氏のように、常に問い掛け口調で話すけれど、その実、ただ相槌を打って欲しいだけ(「do you understand?」くらいの意図)という話し方をする人は結構いて、これは内容の濃淡、対話の深浅は別にして、映像のリズムが出にくい(もちろん現実世界のコミュニケーションの中にまで「絡みにくい事はよくない事」などと中身よりもノリの良さが重要視される最近の傾向は危惧するべきだが)。
結果として、取材者の相槌、取材者との対話部分がVTRに残り、しかも何の説明もなく黒田あゆみ氏が黒田氏の仕事部屋でインタビューする画が出てくるなど、視点が定まらず、とっちらかった構成になっている。
取材して集めた素材を必死で編集し物語を作ろうとしてこの出来ならダメなディレクターだが、黒田氏を表現するにはコラージュ風な構成が一番合うと考えた末にこれなら天才ディレクター。結果的に黒田氏を全く知らない私が最後まで興味を失わないで見る事が出来たのだから、多分後者(天才)。
黒田氏のような70-80年代はバブル系文化人、90-00年代はスローフード系文化人というのは糸井重里氏みたいだが、30歳前の私には感覚的に分からない事が多い。今40代くらいの人でないとこういう文化人の妥当な評価は出来ないと思う。
番組を見る限りでは「絵で食っていきたい、何かを表現したい」という衝動が本人の中に前提としてあり、それを実現するために関わった仕事の路線に、その時代時代で共通点がないようにみえても、本人には筋が通っているのだろう。
底知れないバイタリティみたいなものを持つ人の周りには同じように何かを持っている人が集まってくるものなのだろうが、典型的な万事が現状維持志向の私は、お近づきになりたくないタイプの人だ。