パロップのブログ

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「ナビスコカップ第6節・ジェフ千葉戦」

2007/5/23、広島ビッグアーチ

無職なら平日こそ観戦すべし、という発想で広島まで出掛けた。観戦しようと思ったのは、別にクラブにとっての歴史的快挙に立ち会いたかったからというわけではない。そもそもほんの数年前までミソッかす扱いで大して力も入れていなかったナビスコ杯を「屈辱の歴史」ととらえること自体が捏造に近い。カップ戦といえば、シーズン前に行われるスーパーカップも長い間プレシーズンマッチの類いとして誰も重要視してなかったし、あれでシーズンの行方を占えると考える人もほとんどいなかったと思う。それが数年前にFマリとヴェルディの試合を地上波で中継したところ、ワシントンの脅威が広く喧伝されるようになり、何か意味があるような風潮が出てきたような気がする。結局、レギュレーションや日程を整え、メディアに訴え、チームが全力を尽くせる環境になれば、自然と中身も詰まってくる。最近になって意味が出てきたからといって、昔から意味があったように振舞うのは歴史修正主義。とはいえ、自分は90年代後半を海外厨として過ごしてJリーグはあまり覚えていないので、自分こそ歴史修正主義の勘違いが入っているかもしれない。
珍しく新幹線を使って早めに広島入りし、横川駅からトラムで市街地まで出向いて繁華街を闊歩した。というかずっと立ち読みしていた。今週号のサカダイにオプタのチーム別/個人別記録が出ているが、昨シーズンまでドリブルラン数とタックル数の部門で最下位を争っていたというのに、今シーズンは中位まで上がっていた。タックルは個人でも広島から青山とカズが入っていた。カズもなかなか頑張っているではないか。昔からパス数は多いチームだったが、今はガンバ/ヴァンフォーレとともに繋ぐトップ3。他にも決定機会数やシュート数でも上位にいるし、数字上はなかなか攻撃的なチームになったのではなかろうか。まあパス数は戸田/カズ/青山で稼ぎ、シュート数はウェズレイ/寿人で稼いでいるのをどう考えるかだけど。
観戦にいった理由は、手負いのジェフ相手ならミシャ理想の攻撃的サッカーがピッチで具現化されるのではないかと思ったから。サンフはこの試合を引き分けではダメで、勝ちにいかなければならないし、今年ここまでのナビスコ杯と違って主力メンバーで臨むとなればカウンターサッカーよりはポゼッションにいきそう。一方のジェフはアウェイかつ怪我人続出かつ引き分けでも勝ち抜くチャンスがあるという状態とはいえ、横浜FCのようなサッカーをしてくることはないはず。となれば、ボールを保持しながら攻撃的なパスを繋いでいくミシャサッカーの本領発揮ではないかと。ついでにいうと、後半の良い頃までに点差をつけることが出来れば、久しぶりにハギーが出られるのではないかとも思った。
しかし残念ながら、ジェフは選手が違っても同じようなことが出来るジェフだった。同じようなコンセプト/フォーメーションのチームが戦う、或いは戦って膠着しがちことをミラーゲームというそうだが、サンフが2トップ下/1センター(大分の監督だったかは2トップ2シャドーの珍しい形と言ってた)、ジェフが1トップ下/2センターで、中盤の三角形が噛み合う分、ミラーゲームよりもミラーゲーム。アマルのコメントだと他会場の途中経過によって引き分け狙いにいったりはしていないようだし、斉藤や水本がボールを持って上がってくるシーンもあったし、いつもより守ってカウンターが多めという感じはなかった。ただ、広島3バックがボールを持つと、前からプレッシャーをかけず全員が一旦引き上げていたようだったが、あれはいつもより慎重で守備的だったかもしれない。広島にとっては3バックを追い掛け回される方がワタワタするので、逆に有り難かったような気がする。
先週のリーグ戦ではトップ下の羽生が流れていく先まで青山が掴まえにいっていたが、この試合のトップ下に入った山岸が流れても、浩司は追いかけないで中央に居座り、山岸のケアを駒野/カズや服部/盛田に受け渡していたと思う。浩司のドリブルが好調に見えたのは、基本的にドリブルはプレッシャーの薄い後ろから始めた方がやり易いという他に、山岸が余所に流れていた時に浩司がボールが入るとフリーだったというのもあるだろう。ただ得点に繋がった服部へのパスはその前のドリブルも含めて素晴らしかったが、他の場面で両サイド(特に駒野)へボールを散らす役割はあまり果たせていなかったと思う。現状、青山抜きで理想が具現化することはないだろう。それはともかく、得点シーン前後の浩司はノリノリ天国で見てて笑っちゃうほどだった。
サンフ2シャドーのポジションは日頃の浩司がヘタレというだけでなく、誰がやっても大変なんだということは理解されてもいいはず。一誠は開始まもなく不本意な警告をもらったことでリズムが崩れたのか、或いは単に怪我の影響だったのか、パスはやや弱くなるし、ドリブルでもタッチがいつもより大きくなるし、全体的に上手いこといかなくなっていた。先週、テレビで見た時も途中交代で入ってからの出来は微妙に見えたが、戸田サイトでは一誠のフリーランを高く評価していたし、プレーの善し悪しを素人が判定するのは、なかなか難しい。
後半の後半は中盤の足も止まりかけていたし、3人全員を順繰りに代えても面白そうだと思って見ていた。60分に柏木→ハンジェを入れて微調整、70分に一誠→クワダを入れて微調整、80分に浩司→ハギーを入れて微調整、みたいな。ハギー投入はキープや裏へのパスを考えてだけど、試合展開を考えるとオーストラリア戦の伸二投入くらい叩かれる可能性もあるし、槙野を中盤に入れて逃げ切った実際の采配の方がが現実的だった。2トップも動けなくなっているし、ウェズレイ→平繁もありかと思ったが、キープの時間や場所などの駆け引きなんかを考えると、動けなくてもサッカーを知っているベテランの方が安全という考え方が推測される。ハーフタイムにハギーとクワダがやや長めのフィードをお互いに出し合う練習をしていて「上手いもんだなあ」と改めて感心して見たが、キックが上手いのは分かり切ったことで、守備面で使えるのかはキックの練習を見たって分からない。1点が勝負を分ける展開で投入出来るほどの信頼はないというのが監督の判断なんだろうけど、こういう痺れる試合で経験値を上げることが出来ないというのは本人にはなかなかしんどい話だ。それはともかく、日頃は監督の交代策について文句をいうことはない自分だが、スタジアムに居て目の前で選手の動きが落ちているのに誰も代わらないと結構イライラしてくる気持ちもよく分かった。確かにあれは不満ガスが溜まる。
練習といえば、開始1時間前からスタジアムに着いて試合前練習を見ることが出来たのも久しぶりだった。DF3人が一直線に並んでフィードとヘディングを兼ねた練習をしていた。カズは望月コーチにゴールキックを蹴ってもらって跳ね返す練習もしていたし、昔は淡々とコーチをポストにドリブルシュートをしていた記憶があるけれど、試合前から意識して工夫している感じはした。平繁は引き上げる間際までFKの練習をしていた。やっぱ蹴りたいんじゃないの。
戸田の理想は若手を使ったナビスコ杯のようなプレッシング守備とポゼッション出来る攻撃の組み合わせ。ミシャのポゼッションはリトリートする守備から攻撃へ反転するために必要なだけで、点を取る方法には正直こだわっていないきらいがある。戸田はFW個人の力で点を取った時はあまり御機嫌ではない。でもって、広島のストロングポイントといえば2トップ+駒野なんだから、実はドン引きカウンターが一番有効なのではないかという疑念も晴れない。その中で戸田には戸田の理想があるけれど、キャプテンとしてディフェンスリーダーとしてミシャのやり方を他の選手へ伝える役目も果たすところが、今の広島で最もスリリングなところか。もちろんどのやり方が正しい/強いというのではなく、相手の力量によって、時間帯によって、点差によって様々に使い分けが出来るようになり、勝負の駆け引きがうまいチームになるのが最高なんだけど。
コンセプトといえば、バックスタンドまで手拍子が広がったのは珍しいことだったらしく、集まった5000人弱が本当にサッカーが好きな変人だったのは確かだろうが、味方がボールを下げる度に全体的に失望した雰囲気になるのはどうなんだろう。前が詰まって出し所がなかったら、DFまで下げて作り直すのはミシャサッカーのコンセプトだと思うのだが、多くの人は終盤疲れるにつれて5-0-5同士によってカウンター、カウンター返し、カウンター返し返しが連続するスリリングな展開を好むのだろうか。どうも自分の想像以上にミシャサッカーはサポから支持されていない感じを受けた。
それから今シーズン(というか香港研修から戻って以来)のイエモッツは頭に血が上ったら何をやらかすか分からないのは変わっていないようだが、両チームの選手が大人しくしている分には割とまともなジャッジをしているのに、わざわざ観客が昔のイメージで煽って空気を悪くしなくても、と思った。最近はどこのチームも審判対策を立てているらしく(対策を立てなければならない状況自体が既におかしいと思うのは当然だけど、自ら貧乏くじをひく必要もあるまい)、選手で猛抗議したのは戸田だけだったか。あの場面で何があったのか、帰宅してから『すぽると!』を見ると、黒部のヘディングは戸田を突き飛ばして打ったものだった。あれは確かにファールをとって欲しいが、バクスタから遠かったのでてっきりまたカズが黒部に競り負けたのかと思ってた。
最後にどうでも良いことを一つ。前半にウェズレイがFKをもらった場面で、始めセンターライン付近にいた巻が自陣に戻って行くと、巻に付いていたカズも攻撃に上がっていった。「わざわざ相手のヘディング要員を増やすなんて意味ねー」と思ったら、ベンチのアマルをチラチラ見ていた巻がセンターまで戻ってきたので、結局カズもマークしに帰ってきた。ウェズレイのキックはGKがキャッチし、ロングキックはカズがよたよたしながらヘディングでタッチに逃げたのだが、FKをGKがキャッチしたらすかさずDFの裏へ蹴って巻が動き出すという約束事を、あらかじめジェフのGKと巻が示し合わせていれば、カズはかぶってかもしれない。しかし後から考えると、カズ×巻というミスマッチが生まれたということは、ゴール前の盛田は誰がマークしていたんだろうという謎が生まれる。そんな駆け引き。