パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS1『BSドキュメンタリー』〈証言でつづる現代史〉「大韓航空機爆破事件〜キム・ヒョンヒ拘束の舞台裏」

2006/7/29初回放送、50分、撮影:糸数康宏、ディレクター:森都、プロデューサー:斉藤圭介、制作統括:佐橘晴男、共同制作:NHKエンタープライズ、制作協力:えふぶんの壱/山口秀矢、制作・著作:NHK
検索すると、砂川昌順『極秘指令〜金賢姫拘束の真相』(NHK出版)が元ネタの一つのようだ。同書は、砂川氏を主人公とする情報小説のような体裁になっているらしいが、本番組では007の類は登場せず、表舞台のみで構成されていた。
検索すると、2004年3月23日にテレビ朝日で『緊急SP!!世界を股にかけた女スパイ金賢姫』という番組が放送されている。その中で、砂川氏やバーレーン空港の警備員なども証言しているようだ(もちろん自分は未見)。後から放送する側は当然先行番組を超える新資料を出さなければならない。BS1版独自の新資料は「SECRET」扱いだったバーレーン内務省の調査報告書だけだと思うが、バーレーン政府が許可した証言者と捜査報告書に基づく硬派なドキュメンタリーと、民放テレビが制作した俗っぽい再現ドラマ風ドキュメンタリーのどちらを信じるかは、視聴者が公的権威を鵜呑みにするタイプなのか、逆に公的権力を疑うタイプ(日帝NHKバーレーン政府はグルだ!)かによるのかもしれない。BS1版の中で、

今回バーレーン内務省の許可を得て、初めて現場にいた警察官から話を聞くことが出来た

とナレーションを入れてわざわざ断っているのも、「先行番組は無許可押し掛けワイドショーだけど、うちのは品質保証されているよ」という但し書きみたいなものか。正統派であることは権力の犬であるように受け取られることもある。
青酸カリのアンプルが口の中で割れていないのに手足を痙攣させていたというのは、もう少し説明が欲しいと思うのが人情(個人的には、先輩が服毒自殺した姿を見て過呼吸になったという「金賢姫=思春期少女」説を唱えたいところだ)。それでなくともこの事件は「韓国政府の自作自演」とか「飛行機は落ちていない」とか「金賢姫は韓国のエージェント」などの陰謀論を信じる人もいるようだし、中途半端は却って疑惑を広めるだけ。そもそも、番組のラストを、

金賢姫の拘束は大韓航空機爆破事件の解明にとどまらず、日本人拉致事件という北朝鮮の暗部に光を当てる大きなきっかけとなった

ともっともらしいナレーションで締めているが、金賢姫が記者会見(沢山メディアを集めて会見をさせる韓国の感覚も謎だが)で「自分の教育係は拉致された日本人」と公言したのに、「北朝鮮自身が認めるまでは推定無罪」でNHKを筆頭に大手メディアは黙殺したわけだから、全然「光を当てる大きなきっかけ」にはなっていない。人間は「信じたいことを信じる」生き物なんだから、ドキュメンタリーや報道なんてクソの役にも立たない。そして自分はそのクソが大好き。
事件当時、自分は中学1年で「ドイツと朝鮮は2つあるのが当たり前」と思っており、朝鮮が2つある理由に日本が絡んでいるとか、ずっと日本に住んでいるけど日本国籍でない人がいるとか、メディアでは「韓国は軍事独裁国家で北朝鮮は天国」という設定になっていたとか全く知らなかったので、蜂谷父娘が偽名&パスポートが偽造なんて発表にもピンと来なかった。しかし、今から考えると、実行犯がたまたま北朝鮮出身者だったからねじれが生じなかっただけで、北朝鮮国籍の在日朝鮮人、日本に帰化したけど北朝鮮にシンパシーを感じている人、共産主義にシンパシーを感じている日本人等が実行犯だった可能性も低くない。その場合は日韓/日朝/韓朝の国家関係やら捜査の主導権やらメディアの反応やらがどうなっていたのか興味深いところではある。