パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS1『戦後60年・歴史を変えた戦場』「ボスニア内戦10年目の真実〜スレブレニツァ虐殺はなぜ起きたか」

2005/12/17初回放送、50分、コーディネーター:千田善/マイケ・ファン・ススト、取材:長塚玲、ディレクター:山根幸太郎、制作統括:辻泰明/東野真、制作協力:パオネットワーク/藤枝融、共同制作:NHKエデュケーショナル、制作・著作:NHK
後述するように、スレブレニツァ虐殺については、既にBBCが制作した傑作ドキュメンタリーがあるので、「今さらな内容に終始したらどうしようか」と、あまり期待していなかったが、タイトルは誇大広告にしても、意外と良かった。新史料映像は、今年の夏に旧ユーゴ戦犯国際法廷で公開されたというムスリム殺害シーンだけで、セルビア側から撮ったムラジッチの映像や国連オランダ人が撮った映像は既出だと思う。それよりも、今回新たに撮影されたらしい当事者・関係者によって10年前の出来事を振り返るインタビューが、今を感じさせる視点で良かった。「10年目の国際社会の受け止め方を描いていく」というNHKサイトの予告通りで、これは、旧ユーゴやオランダで取材したコーディネーター氏らのグッジョブではなかろうか。
以下は、関連・参考資料みたいなもの。

  • ETV『ドキュメント地球時間』「絶望の淵で〜ボスニア大虐殺の記録」

2000/9/8,15放送、制作:英アンテロープBBC
番組の記憶は残っていないので、以下、当時の感想メモを引用すると、

スレブレニッツァにおけるイスラム教徒大虐殺を実証的に再現するイギリスらしい手堅い作品。約3年間の戦争中、ずっと意味なし虐殺が続いているわけはなく、戦略、復讐などリズムを理解しないと謎は解けない。確かにムスリム側が先に民間人を虐殺しているが、それでもセルビア人の行為は許せない、という微妙な作りが報道者としての良心と偽善者イギリス人らしい偏見との葛藤が見どころ。国連部隊の限界もよく表現している。

ということで、この時点でスレブレニツァ虐殺の真実はほぼ解明されていた模様。BBCのサイトを検索すると、原題は“A CRY FROM THE GRAVE”で、イギリスでは1999年に放送されたようだ。
http://www.bbc.co.uk/bbcfour/documentaries/storyville/a_cry_from_the_grave.shtml

2005/11/10放送、50分、制作:オランダ・Sens TV(2004年)、構成:ビオレタ・ウィレムセン、日本語版導入:百瀬好道解説委員
期待していたミロシェビッチ映像は後半に5分くらい。どちらかといえば、ICTY立ち上げ時のエピソードの方が面白そうだったので、そっちに深く突っ込んで欲しかった。前例が何もなく、オフィスも空っぽのなか、逆にしがらみも少なく、自由度が高かった頃の組織の物語がみたかった。いろんな人のインタビューをつまみ食いするよりも、10年間ICTYにいた誰か一人にスポットを当てて、話を回させた方が良かったのではないか。

  • 多谷千香子著『「民族浄化」を裁く〜旧ユーゴ戦犯法廷の現場から』(岩波新書、2005年)

「これを読んでから見た方が理解が深まるかも」と、上の2つのドキュメンタリーを約1カ月以上、我慢して寝かせてしまう程の期待をしていたが、残念ながら外れだった。
旧ユーゴ戦犯法廷で判事をした著者が、担当した裁判で行われた被害者証言を要約した第3章は日本語では手に入りにくい情報として興味深いし、国際刑事裁判の意義を法律家の立場から擁護した第5章は個人的にはあまり関心ないが、本書の核と言えなくもない。しかし、その他の章、ミロシェビッチの人生とか旧ユーゴの歴史を説明した部分は要らない。新書の体裁上、前説として必要だったのかもしれないが、「ユーゴに関する付け焼き刃の情報なんか、あんたに期待してないんだよ!」と言いたくなる。たとえば、控訴の結果、二審で無罪になった裁判の経過とはどんなだったかとか、国際慣習法のうちどれを適用すべきかで議論になったとか、現場の法律家にしか書けないことが他にあるだろう。まあ、これは筆者の責任というよりは、方向性を決めるべき編集者が無能。
1つ勉強になったのは、成年男子をかき集めて殺してもジェノサイドの罪には問えないということ。ジェノサイドはあくまで宗教や民族によって区別される集団を抹殺することが目的なので、成年男子だけだと「敵方の軍人になって攻撃してくるのを未然に防ぐため」と見なされるようだ。