パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

『NHKスペシャル』「コソボ・隣人たちの戦争〜“憎しみ”の通りの6年」(終戦60年企画)

2005/8/10放送、58分、リサーチャー:富永正明、撮影:稲川英二、ディレクター:右田千代、制作統括:藤木達弘
見ている途中で「戦争は勝者も敗者も幸せにならないんだ」というこの時期にありがちな結論ありきの番組づくりだと侮っていたが、後半では「米国及びNATOはバルカンの要衝へ軍事基地を作るために空爆を行い、コソボアルバニア人とセルビア人を対立させた」という、ある意味踏み込んだ推測を提示したので驚いた。
戦争当事者の証言が感情のこもったものになるのは当然として、ナレーション部分での「弾圧」「迫害された」「乗っ取って」「抑圧する」「追い出す」といった言葉の使い方が粗雑というか、吟味されていない印象を受けた。事実関係としては間違ってなくても、使い方を間違うとレッテル貼りになるというか、少しずれた形で視聴者の印象に残り易い言葉を使っている感じがした。もちろん、あくまで印象に過ぎない。
富永氏はピクシー取材で木村元彦氏とタッグを組んだ有名人。稲川氏も『失われた思春期』という旧ユーゴにまつわる傑作ドキュメンタリーを作った人。旧ユーゴ関係の扱いは熟知しているはず。という事で、結局ディレクターの言語選択センスに問題があるような気がするのだが、あくまで推測に過ぎない。

1999年に放送されたという前作「隣人たちの戦争〜コソボ・ハイダルドゥシィ通りの人々」だが、今回の番組に挿入された当時の映像を見ても、全く見た憶えがない。ユーゴ物を自分が見ていないはずはないと思って当時の日記を引っ張り出してきたら、1999年9月17日に見た事になっている。21時頃という事で、リアルタイムで見たようだが、金曜日に『Nスペ』を放送していた記憶もない。多分、精神的にもっとも沈んでいた頃なので、脳味噌に残らなかったのだろう。
更に当時のテレビガイドを引っ張り出してみる。確かに金曜日の21時30分から『Nスペ』をやっている。9月10日に〈「戦争を生んだ故郷・コソボ難民・帰還後の日々〜故郷とはなにか」(仮題)〉というのが予定されていたが、何かの都合で中止となり、翌週17日に放送となっている。
ちなみに前作は国際的な賞も獲っている。英語版のタイトルは“displaced”。

その後、お盆休みに、木村元彦著『終わらぬ「民族浄化」』(集英社新書)を読んだ。木村氏も「1999年の空爆前は、セルビア治安部隊とコソボ解放軍それぞれによる戦闘行為とそれに付随する民間人被害があったものの、住民は隣り近所同士、民族の区別無く助け合っていたけれど、空爆後は民間人の間でも民族憎悪が高まった」としている。なので、この番組の立ち位置も事実としてはおよそ正しかったということか。