パロップのブログ

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BS1『BSドキュメンタリー』「大惨劇の三日間〜ロシア学校占拠テロ」

2005/4/9放送、50分、取材:オルガ・ブダシャフスカヤ/倉地三奈子、構成:ロバート・スターン/ケビン・キム、制作統括:山崎秋一郎/岡田俊郎、共同制作:NHKエンタープライズ、制作協力:NEPヨーロッパ/紙屋聡、制作・著作:NHK
犯人から「チェチェン独立運動の敵」として現場まで来るように名指しされたのは、北オセチア共和国大統領、イングーシ共和国大統領、モスクワ劇場テロの交渉人、チェチェン問題担当顧問の4者で、前2者はどうやら要求をスルー、交渉に乗った顧問が恐らくアスランベク・アスラハノフ氏(チェチェン人)。アスラハノフ氏がモスクワから電話で交渉しつつ、発生2日目に北オセチア共和国議長のタイムラズ・マンズロフ氏が、発生後29時間目に前イングーシ共和国大統領ルスラン・アウシェフ氏が登場(アウシェフ氏曰く「要求を書いた紙にバサエフの署名有り」)、というのが大体の流れ。
事件から約半年経った時期に、日本の放送局が自前でドキュメンタリーを作る意味を考えると、中途半端な感は否めない。当時の速報ニュースの中では扱われなかった「占拠グループと政府は人質解放のために必死で交渉していましたよ」というヒューマニズム溢れる秘話のようでもあり、交渉にあたった3人の証言が食い違う『藪の中』的な物語をエンターテイメントとして提供したかったようでもある。着地点が今一つ見えなかった。
〈倉地三奈子/NEPヨーロッパ/紙屋聡〉あたりで検索しても、出てくるのはこのサイトのこれ(http://d.hatena.ne.jp/palop/20040215参照)くらいなんだけど、確かこれも微妙な出来だった記憶がある。何というか「想定される視聴者の知識がどのくらいなのか」「自分たちは何を知らせたいのか」といった基本設定があやふやなまま、とりあえず折角撮れたインタビューだから放送しているように感じられた。
制作者から「交渉にあたった当事者3人から直接インタビューがとれたのだから、それだけでも立派なもんだろ!」と言われれば、確かに「貴重なインタビューを有り難う」と思っている自分もいるのだが、やはりロシア関係の番組は期待値が高くなる。個人的に「ロシア政府は人質の命なんて屁とも思ってなさそう」「ロシア政府の発表は大抵情報操作」「ロシア人がインタビューで事実・本音を正直に語るわけがない」という偏見を持っているので、要人インタビューという素材だけをそのまま提供されてもうまく消化出来ないというのもある。
もう一つ引っかかっているのは、事件当時「交渉役を務めた政府の犬」としてメディアに登場していた小児科医ロシャーリ氏(http://d.hatena.ne.jp/palop/20041013参照)が本作品では全く登場しなかった事。彼が前記の「モスクワ劇場テロの交渉人」の事だと思うのだが、まあロシア政府の中でアスラハノフ氏が実際の電話交渉役、ロシャーリ氏は政府の犬らしくメディア対応スポークスマンという役回りだったと推測出来ない事もない。それはそれとして、視聴者の知識・記憶を利用しつつ「ロシア政府の発表はこうでしたが、実際はこうでした」と対比させて話を進める作りをした方が、一般人に見せるドキュメンタリーとして親切だし、真相を暴いたスクープ感も増したと思う。
余談だが、約10年前、私の師匠が「最近のロシアでは『ロシア民族』を意味する『ルースキー』という語の他に、『ロシア国民』を意味する『ラシアーニャ』という造語が広まっているらしいよ」という話をしていた。真偽の程は定かでないが、上記の文中で使っている「ロシア人」は「ロシア共和国民」の意で「ロシア民族」ではない。