パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS1『BS世界のドキュメンタリー』「イラク報道の舞台裏〜アルジャジーラ対アメリカ(CONTROL ROOM)」

2004/5/29放送、50分、制作:ヌジャイム・フィルム(アメリカ/エジプト・2004年)、プロデューサー:ジェヘイン・ヌジャイム/ロサデル・ヴァレラ、【日本語版】導入:柳澤秀夫解説委員、制作統括:古川潤、4:3画面
今年1月のサンダンス映画祭で注目を集め、それが波及して日本でも放送。しかし元々83分の映画を45分程にショートカットしている時点で、評価不能。『日曜洋画劇場』じゃあるまいし、90分枠くらい確保しろよ。というか「何を撮ったか/何が映っているか」ではなく「誰が撮ったか/どういう意図で撮ったか」の方が重要ではないかと思う今日この頃。今や多くの人が、映像そのものには心を揺さぶられても、撮影者の意図を疑っている。
ディレクターのヌジャイム(Jehane Noujaim)はカイロ生まれの29歳。1990年にボストンへ移住してハーバード大で勉強。プロフィール写真を見る限り、日本のワイドショーなら「美人監督のサクセスストーリー!!」でいけそう。
http://www.harvardfilmarchive.org/calendars/04_summer/noujaim.html
http://www.indiewire.com/people/people_040524control.html
上のインタビューを拾い読みする限り、ヌジャイム氏とアルジャジーラを仲介したのが、このドキュメンタリーにもインタビュアーとして登場するカイロ・アメリカン大学教授&ジャーナリストのアブダラー・シュライファー(Abdallah Schleifer)氏。
NHKサイトの解説によれば、アルジャジーラの理念は「放送を通じて、これが民主主義だ、これが言論の自由だ、アラブ人よ目をさませ、と伝えたい」ということらしい。多分アルジャジーラというのは「テレビで流れているものをそのまま信じてしまう無知蒙昧な愚民を啓蒙しようとする意欲に燃えて早10年弱」といった西側へ留学した経験を持つ高学歴エリートの集まりなのだろうと推測される。30〜40年経つと、今の日本のテレビ局みたいな感じになるのか。
放送の終盤、アルジャジーラのベテラン記者が米軍広報官を(恐らく社交辞令で)自宅に誘う場面、記者が「家族にヘブライ語を話せる年寄りがいるから、きっと話が盛り上がるよ」(記憶違いの恐れあり)といっていたので、恐らく広報官はユダヤ系なんだと思う。「除隊したらパレスティナ問題に取り組みたい」みたいな事も話していたし。
ヌジャイム監督、シュライファー氏、アルジャジーラのベテラン記者、それに米中央軍司令部メディアセンターを仕切っているから多分エリートなんだろう米軍広報官、彼らは西欧的思考と中東的価値観の両方を理解しようと努める事が出来る人達で、立場は違うけど同じテーブルについて話の出来る人達なんだろうと思う。このうち米軍広報官を除いた中東起源の3人は、今回のアメリカのやり方には当然反発しているものの、サウジやクウェートの王制やフセインの独裁にも苛立っている。西欧型民主主義の意義も認めている。それが庶民に伝わらなくて更に苛立っている。中東諸王家から睨まれ、庶民からも疎まれるアルジャジーラの苦悩に、ヌジャイム監督は自分と共通するものをみたのだろうか。庶民の現実を伝えようと悲惨な映像を流すと、かえって自分達が望む西欧的な民主主義よりも爆弾持って白人に突っ込む人を支持する層が増える皮肉を、彼らはどう考えているのだろうか。
今更いっても仕方ないが、米国はその理念のほとんどを共有するアルジャジーラを味方として扱うべきだった。というか、中東に造詣深く、かといって「白人ぶっ殺せ」とも煽らないアルジャジーラは、「良心的な」ポーズをとりたい西側人にとって危険なくらい安易に支持しやすい存在だったはずなのに。
この放送をみた日本人の頭に残るのは、破壊された家を指差しながらブッシュの悪口を言う女性や男の子の姿なんだろう。それはエモーショナルな場面だから。そして「庶民が可哀想、ブッシュ悪人、イラク戦争は誤り」の3点セットな感想。多分それは、これらの映像を撮影・放送したアルジャジーラの意図でも、そのアルジャジーラを取材したヌジャイム監督の意図でもないのだろうけど。