パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS1『ワールド・ドキュメンタリー』「祖国に見捨てられたソビエト兵」

2001/8/4放送、スウェーデン・ジラフフィルム、2000年
東部戦線でナチスの捕虜となり、ノルウェーに送られて道路建設の強制労働させられたロシア等人が、戦後ソ連に帰った瞬間から「裏切り者」としてソ連強制収容所に送られた話。冒頭に北欧の地図を1枚出したきり戦争の状況やら年表的知識やらを全く表示しない潔さが良い。こんな番組を見ている奴は、連合国ノルウェーはドイツの占領下でスウェーデンは中立、ドイツの降伏は45年くらいの素養はあるに決まっている。最初はナチスの捕虜に対する残虐行為を告発する内容かと思わせ、途中からノルウェースウェーデン国民とロシア人捕虜との交流秘話になり、最後はスターリンってば酷い奴というソ連体制告発もので終わった。個人的にはロシア人捕虜に対して食料を恵んだノルウェー人女の子の話とか脱走した捕虜を匿ったスウェーデン人おばさんの話を中心の絞った方が面白かったと思う。このドキュメンタリーの元々の視聴対象は自国(スウェーデン)の戦争の記憶が風化した若い子で「こんなことがあったんだよ。ロシアとももっと仲良くしようよ」と語るような作りの方が、スターリン批判より大事だろう。前半のドイツ捕虜時代を回想するロシア人の話を聞いていて思ったのだが、彼らは本当に捕虜になって酷い目にあったと思っていたのだろうか。強制労働や食事に関して現代スウェーデン人の人権感覚から番組を作っているが、老ロシア兵にとってはスターリン体制下の祖国も捕虜としての生活も飢えて死にそうな点では大して変わらないし、ロシア人のお上に対する感覚はいつの時代も「どうせお上は我らから搾り取る奴らじゃ」くらいなものだったと思う。「食事は1日1回、塩づけ魚にイモが数百グラムじゃ」などの発言も取材者にとっては「虐待するナチス」の証拠だが、言った本人にとっては「ノルウェー料理は不味かったのう、お袋の食事が一番じゃ」くらいの感覚でしかなかったのでは。ロシア人の感覚を言葉だけで判断するのは危険というか、言葉を拾って並べるドキュメンタリーそのものの弱点をみた気もする。蛇足だが、スターリンが帰還捕虜を「裏切り者」呼ばわりしたのは、戦時中ドイツに生きたまま捕まったからではなく、戦後、西側の援助物資を受け取って楽しい暮らしを味わったこと=ソ連体制の生き辛さを告発する恐れがあったからだろう。それじゃあ、自分とこの体制がおかしいと認めたようなもんだよ、スターリン