パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS1『海外ドキュメンタリー』「EUの光と影/第2回〜消えた援助金」

2001/5/20放送、デンマークDR、2000年
先週、何かと重なって第1回を見逃し、続き物だったらどうしようかと思ったが杞憂。前半25分はEU委員会人道援助局(ECHO)で起こったボスニアへの援助金横領事件という具体例を検証しながら官僚部分の腐敗というミクロに迫り、後半20分はそこから派生したEU委員(政治家)の腐敗というマクロに迫る完璧なドキュメンタリー。実業家クロード・ペリーが所有するブリュッセルにオフィスを持つ会社のEUから委託されたボスニアでの人道援助プロジェクトのうち3件が架空の事業で詐欺だった事が判明。EU詐欺犯罪対策室の調査官ディーン・リヴァンドの調査により、ライノの側近ヒューベルト・オニーディの告発でECHO局長サンティアゴ・ゴメス=ライノ(スペイン人)がペリーと結託していたことも判明。3億円の行方不明金のうち3分の1は架空会社の社員の給料や、ルクセンブルク銀行のオニーディ(告発者なのに!)の妻の旧姓名義の口座に振り込まれていた事が判明。EU詐欺犯罪対策室事務次官クリスタ・アスプ(スウェーデン人)は最初の報告書に「ライノはクロ」と書く。ところがEU事務総長(官僚サイドの親玉)カルロ・トローヤンは「調査はライノ自身が指揮しろ」と命令。怪しい証拠は消えるに決まっている。並行してEU委員会も独自で調査し、EU委員会事務局長フィリップ・ローの第2報告書でもライノの補佐グレコフスキや財務部長の証言から「ライノはクロ」。アスプの上司パーブリックス・クヌーゼン委員会事務局長(デンマーク人)を中心とした事務総局長2人が書いた第3の報告書でも「ライノはクロ」。ところがトローヤンは報告書を元に懲罰委員会を設置するが、5人の懲罰委員は皆ライノの同僚官僚(しかも灰色の噂)で、懲罰委員会の決定は「ライノはシロ」。それがEU委員会に上がってきてシロと「全員一致で大決定」。EU委員(政治サイド)はマスコミに叩かれた責任を取って総辞職したが、官僚サイドは告発者オニーディのみ解雇され、でもEUから年金をもらっている。ライノは弁護士を側に取材にも堂々と対応していた。ライノを局長に任命したのは同じスペイン人のEU副委員長マヌエル・マリンで、その後任はイタリア人エンマ・ボニーノ。この2人が事務方に圧力をかけて詐欺犯罪対策室の操作を妨害した事実は確認されている。官僚の親玉トローヤンもカルロというファーストネームからラテン系であると分かる。そこから出される結論は、政治家・官僚ともにスカンディナビア・セットがどんなに透明なEUを目指して、賄賂・汚職体質が染み付いているラテン・セットがEUの組織を牛耳っている限り、如何に政治委員が辞職しても変わらないということだ。テレビを見ながらメモしたので敬称など多々間違いはあるだろうが、EU委員会と事務局が各国政治家が派遣されてくる行政部分で、それを実行に移すのがECHOなど各局の事務部門、それを監視するのが各国の選挙で選出されたEU議会議員だと思う。事務官僚はブリュッセルでの試験採用だからラテン系縁故のノリが強いし、選挙民に審判を受けるわけでもない。実際、ライノはその後も事務官僚としてどんどん出世している。政治家ボニーノについて擁護しておくと、彼女は「google」で検索する限り、人道活動専門家としてアフガンでタリバンに捕まったり、現場主義を実行する真面目な政治家のようだ。ただ国際政治の常としてスペイン票が必要な時のために3億円汚職のような些細なことでマリンに恩を売ったくらいだと思われる。まあイタリアの政治家だから裏では大汚職野郎なのかもしれないが。さてこのドキュメンタリーの意図が「こんな腐った組織からは脱退しようぜ」というメッセージなのか「だからこそ我々清廉潔白なデーン人の努力でEUを善くしていこう」なのかは、受け取るデーン人でも各々だろうし、このDRという放送局の政治的立場も残念ながら知らない。だが、これを見た後にEU加盟の国民投票なんぞやたら絶対「反対多数」だろう。傑作。(採点7.5)