パロップのブログ

主にTVドキュメンタリーを記録します

今日は23時から傑作『BS世界のドキュメンタリー』「告白 coming out」の再放送があるよ

BS世界のドキュメンタリー』「告白 coming out」
2010/11/6初回放送、50分、撮影:今井巧、音響効果:新井誠志、コーディネーター:福森伸一、取材:小林未緒、ディレクター:久保田直、制作統括:茂木明彦/三浦尚/久保田直、制作:NHKエンタープライズ、制作・著作:NHKドキュメンタリージャパン
公式サイトの紹介文には、

今年9月、ニューヨークで、同性愛者であることを、ルームメイトにインターネット上で、暴露された学生が、これを苦に自殺。全米を揺るがす騒動になっている。(中略)「同性愛者の為の公立高校」が2003年にニューヨークで開校した(中略)ニューヨークの一般の公立高校や私立高校にも、同性愛の子どもたちをケアするための方策が漸く始まった。GSAクラブと呼ばれるサークルを学校内に作り、同性愛者である事に悩む子が、如何に自然にカミングアウトをする事が出来るか、そして互いに違いを認めあいながら共生していく気持ちを育てるにはどうすれば良いかを皆で考えていく(後略)
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/101106.html

と書いてあるが、実際の内容は全然違う。「同性愛者の為の公立高校」なんて全然出てこないし、GSAクラブも30秒くらい。
2年前、母と友人にカミングアウトしたが傷つく結果になった15歳女性キムが改めて同性の親友と父姉にカミングアウトする話と、低所得者層の黒人が多く暮らす地区に両親と10人の兄弟姉妹と住み、周囲にばれたら黒人ギャングマッチョ文化の制裁を受けると恐れる17歳男性スティーブが最も仲の良い妹にカミングアウトする話の、2本のエピソードを軸に展開される(もう1人、家族にカミングアウトしたが受け入れられず、1か月前にホームレスとなった19歳のアフリカ系男性タリクの話も少しだけある)。彼らの生活を通して、同性愛者の若者を支える団体、黒人男性の同性愛者を支える団体、ホームレスとなった同性愛の若者を保護して緊急避難させる施設も紹介され、流石ニューヨークには様々な支援組織があるのだなあと思うけど、そこは本筋ではない。
とにかくキムとスティーブが家族に告白する場面が圧巻。いくら子供の時から自分の意見を論理立てて積極的に説明する環境の中で育っているとはいえ、あまりにも意味・中身のあり過ぎるやり取りに演出(台本)の存在を疑ってしまうくらい(もちろんたとえいくらかの演出があろうともこの映像の強度を損なうものではない=森達也氏的な言い方をすれば)。特にスティーブの妹16歳が賢過ぎる。

15歳か16歳のとき、男であることとは何なのかに悩みだして、そのとき初めて男の子とつきあってみた。でも、その世界に入ったばかりだから、自分が本当に同性愛者なのか、非同性愛者なのかもはっきりせず、どうして良いのか分からなかった。僕は口紅やハンドバッグを持って女みたいに話す男が同性愛者だと思っていた。でも同性愛者にもいろいろな個性があって、女性的である必要はないし、女みたいな格好をする必要もない。それが分かってから僕は同性愛者だと自覚したんだ。(中略)学校では小さな洋服ダンスの中にいるような気がしている。そこから出たいと思うけど、学校にもギャングがいるから絶対にカミングアウトできない。ギャングに僕が同性愛者だって知られたら、ギャングのメンバーは同性愛者をたたきつぶす対象にしているから、ボコボコにされていじめられる。想像もしたくないし、そんなふうになりたくない。同性愛者ということで、殴られたり殺されたりしたくないからね。そんな目に遭いたくないから今は洋服ダンスの中でおとなしくしている。

これだけ自分自身の事を言葉に出来るスティーブよりも上。一見物分かりが悪いようにみせて、実は兄貴により深く自身の内面について説明させるカウンセラーの役割を果たしている。メモってないので勝手に意訳すると「兄貴が同性愛者だって聞かされて私がどう思ったかだって?それは問題のすり替えでしょ。兄貴は自分がどうなりたいの?私にどう思って欲しいの?だから兄貴の問題じゃん。それをはっきり説明出来ない癖に、私の意見なんて聞いてどうすんだよ。私は兄貴のために自分の意見を変えたりしないし、理解した振りもしない。でも兄貴が同性愛者だからって私たちの関係は何も変わらないわ。私は兄貴を愛してるもの…」こんな感じ。こんな16歳は正直とても想像できない。まあとにかくこんなヒリヒリするようなやり取りがいくつも展開される。
このエントリーの最初に載せた番組紹介文を読む限り、企画書の段階ではもっといわゆる客観性が高くて先進ニューヨークの施設や組織を紹介した情報系のドキュメンタリーを想定していたのだろうが、9月の自殺事件を受けて作品の方向性を変えたのだと推測する。
この作品の音響効果を担当された方のツイッターを読むと、

音楽プロデュースで参加する NHKのドキュメンタリー <世界に生きる子どもたち告白・カミングアウト11/6放送>の仮編集を見ている。。まっすぐ向き合わないとこの作品には関われない。。。
posted at 02:52:50(10/29)

11/6放送の『NHK BS 世界のドキュメンタリー・カミングアウト』の音楽がやっとスタンバイ完了!むずかしかった〜〜 念には念を、もう1回プレビューしとこっ。。明日は本番、スタジオで音楽入れとミックスダウンで。。
posted at 01:50:03(11/5)

明日放送NHK BS 世界のドキュメンタリー告白 の音楽入れ & ミックスダウンが無事終了!今回はディレクターの試みでナレーションは一切入っていません。それだけに音楽の使用法がとても難しい作品でした。是非ご覧になって頂きたい作品です。
posted at 22:20:08(11/5)

放送前日の夜まで編集作業をされている。撮って出しのニュースならともかくドキュメンタリーでここまでギリギリなのは珍しいはず。
番組中でも紹介されたオバマのメッセージ:

同性愛者だからいじめを受けることは私には分からない。しかし自分がはみ出し者であると思いながら育つことが、どんなにつらいかは分かる。しかし私が言いたいのは、君は一人じゃない。君は何も間違ったことはしていない。いじめに値するようなことなんて何もしていない。可能性に満ちた世界が君を待っている。あるがままの君を愛し、大切にしてくれる人が必ずいる。

上記の言葉を映像化して日本の同じようにつらい思いをしている10代男女へのメッセージにしたのがこの作品なんだろうと思う。日本のマスはオバマのようなメッセージを発信してくれないから、この作品を見てまさに「自分に向けられている」と心に深く刺さる人はごくわずかかもしれないが、それでもマスメディアを使って放送する意味があるとディレクターは覚悟を取ったのだろう。
ディレクター名で検索すると、以下の文章に当たる。

ドキュメンタリーを本格的につくるようになってから、おもしろさと同時にしんどさの両方がわかってくる。そして「これはテレビにおさまりきれないもの」だと確信した99年に、まだ製作過程で発表に至っていない作品、生まれ持った性に翻弄され、自らのアイデンティティーに揺らぎながらも美しく生きる人物ドキュメンタリーを映画にする目的で渡米している。
http://www.tv-exm.net/interview/pdf/013.pdf

あのドラマ以上ともいえるカミングアウトする場面は、十年以上にわたって米国(ニューヨーク)で当事者や専門家と人間関係を作っていたからこそカメラに収めることが出来たのかもしれない。そんなディレクターの思いとパワーが伝わってくる傑作。
余談だが、オバマの言う「君は一人じゃない」は様々に解釈出来る気がする。「君のように自己肯定意識が持てず、周りに相談出来ない多感な少年少女は隠れているが沢山いるよ。君一人じゃないよ」という意味。或いは「体面ばかり気にして絶対理解してくれなさそうな家族だって告白してみたらそのままの君を愛してくれる味方かもよ。そしてもし家族が理解してくれなかったら、もちろんつらいだろうけど、その時は理解してくれる人と出会える施設や組織だって今では沢山あるよ。君は一人じゃないよ」という意味。作品内容を素直に受ければやはり後者だろうか。