パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

続・逮捕されたNHKディレクター、その後

珍しく腹が立って言葉遣いも悪いけど御容赦を。前回のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/palop/20080304)へ「NHK職員+不起訴+11月」という検索ワードから来た人がいたので、辿ってみたら新しい情報を見つけたので載せておく。リンクを張るだけでもよいのだが、分かり易さを考えて全文引用。

人権と報道・連絡会:ニュース・ダイジェスト&お知らせ
第231回 裁判員制度と犯罪報道 | メイン
2008年03月04日
人権と報道・連絡会2008年3月の定例会(予告)
 次回定例会は3月17日(月)午後6時から、水道橋の東京学院で。テーマは「痴漢冤罪と実名報道被害」。
 昨年6月、都内に住むNHK職員Yさんが帰宅途中の電車内で眠り込み、顔が女性の頬に触れて「痴漢」扱いされ、逮捕される「事件」がありました。Yさんは容疑を否認し、3日後に釈放。ところが、新聞・テレビは釈放後に全国ニュースで「NHK職員が痴漢行為で逮捕」などと実名報道。7月に不起訴となってもそれを報道せず、Yさんは11月、メディア各社に、(1)釈放後にもかかわらず、実名報道した理由は何か(2)不起訴処分を伝えて名誉回復を図ってほしい、と申し入れました。その結果、NHK以外の各社は、「不起訴」を報じましたが、実名報道の被害については各社とも「非」を認めませんでした。
 例会では、いくつかの痴漢冤罪事件に取り組み、この事件でも逮捕直後からYさんを支え、メディアへの申し入れなどに取り組んだ代理人・大山勇一弁護士に、「事件」の概要と実名報道による被害、申し入れに対する各社の対応などを報告していただきます。
http://www.jca.apc.org/~jimporen/log/archives/2008/03/20083.html

前回のエントリーで引用した2007年11月付の記事(今回の記事で、なぜ11月になって不意に報道されたのかが分かった)によると「迷惑防止条例違反の現行犯で警視庁に逮捕され、釈放されていた。その後、女性との間で示談が成立したことなどから、不起訴処分となった」ということだったのだが、今回の記事だと最初から一貫して否認していたことになっているし(2007年6月の記事だと、本人曰く「記憶がない」「事実なら社会的制裁を受けても仕方ない」、或いは代理人の弁護士曰く「本人は酩酊状態で記憶がなく、意図的ではなかった。マナー違反にとどまる」)、示談の話も出てこない。

帰宅途中の電車内で眠り込み、顔が女性の頬に触れて「痴漢」扱いされ、逮捕される「事件」がありました

と敢えてカギカッコを付けることで逮捕すら不当な印象を与えようとしているが、現行犯逮捕されたところまではそれほどおかしくない。それよりも逮捕されただけで有罪になっていないのに抹殺される社会的風潮がおかしいんじゃないのか。Y氏はそういう風潮に疑問を持つドキュメンタリー番組を作ったことがあるのか。NHKでそういう機会も権力も持っていたと思うのだが。

Yさんは容疑を否認し、3日後に釈放。

「否認」して「無実」だから「釈放」されたような印象を与えようとしているが、単に取り調べして調書を作って逃亡や証拠隠滅の恐れがないから釈放されただけかもしれない。今回の記事だけだと分からない。或いは「示談」がまとまったから「不起訴」なのか、「潔白」だったから「不起訴」なのかも分からない。分からないが、

Yさんは11月、メディア各社に、釈放後にもかかわらず、実名報道した理由は何か、と申し入れました

逮捕されたらとりあえず実名報道は、Y氏のNHK様も含めて普段からマスメディアがやっていることではないか。理由なんかない。ただの慣習。そもそも「逮捕されること」「起訴されること」「有罪になること」のどこでマスメディアが実名で社会的制裁(いわゆるメディアによるリンチ)を加えるかは、人によって見解も様々だろう。個人的には事件報道そのものが不必要だし、報道するにしても匿名で充分だし、せいぜい有罪判決が出たら官報に実名を掲載するくらいで充分だと思っている。そもそもY氏本人が「報道は原則実名」にこだわっているNHKという巨大メディアで働いているくせに、自分が報道被害にあったときだけ、

実名報道の被害については各社とも「非」を認めませんでした

とか何様かと。

とまあ、ここまでは結局メディアの報道を拾っただけだから素人一般人に事実は分からないし、正直あまり関心はない。腹が立っているのは、相変わらずY氏が匿名を希望していること。初期報道であれだけ実名が出回り、ネットにも出回り、半永久的に痴漢報道を記録するサイトみたいなところにも載り続けるというのに、大手メディアに対してのみ、

不起訴処分を伝えて名誉回復を図ってほしい

とか、もうねアホかと。Y氏はネットをやったことがないのか。初期報道を打ち消したいなら、実名で検索して本人の反論が上位にくるくらい大声で叫べよ。本人がネットで「私は酩酊状態で電車内で眠り込み、顔が女性の頬に触れて逮捕されましたが、痴漢はしていません。逮捕されたことで、今までのNHKの報道姿勢にも疑問を持ちました」って叫べば、Y氏の作った番組に感動して、被害者女性を誹謗中傷してまでY氏を庇っていた反戦護憲ブログも「やっぱりYさんは無実でした!」って喜んでリンクを張って触れ回ってくれるだろう。実際、電車で居眠りして女性に触れて痴漢と間違われて逮捕された野村高将氏のケース(http://www.japancm.com/sekitei/note/2007/note36.html)はY氏のケースとよく似ているが、野村氏本人がネットで大声で叫んでいるから、ちゃんと本人の言い分が広まっている。自分としても、このエントリーを実名で書いてY氏の名誉回復に僅かながらでも貢献したいと思っているが、本人がこれではどうしようもない。
どう考えても、人権と報道・連絡会が唱える「事件報道における匿名報道主義」とNHKの報道姿勢は相容れない。そもそも、反権力ジャーナリストにとって不当逮捕は、実名で言い触らしたくなるおいしいネタだと思うのだが、マスメディアに向かって「名誉回復を図ってほしい」とお願いするなんてどうかしてる。「私はしがないサラリーマンテレビ屋です。護憲ドキュメンタリーも上司に言われたまま取材しただけで、これっぽっちも関心がありません」というならば、NHKに属したまま匿名で自分の報道被害だけを訴え、自分が報道する側の時はどんどん実名報道をすれば良い。もし本当に憲法や人権について考えているならば、NHKを離れ、宮崎学氏や三浦和氏や鈴木宗氏のように国家権力によって逮捕された人達の側に立ち、大手マスコミとは違う視点からメッセージを発するジャーナリストになるべきだ。Y氏は人生を選択しなければならない。

ものすごい余談だが、「探偵ファイル」というサイト、「うっかりほおずりしちゃいましたbyNHK」http://www.tanteifile.com/tamashii/scoop_2007/06/12_01/index.htmlではY氏の実名を上げて茶化す悪趣味な報道をしているのに、「痴漢冤罪」http://www.tanteifile.com/tamashii/scoop_2007/10/13_01/index.htmlでは野村氏のケースを引用して「否認をしているにもかかわらず、実名報道とはいかがなものか」と書いている。個々の記事を書いたライターは別人なのだろうが、サイト全体での整合性など微塵も気にしない呆れるほどの手のひら返しはある意味清々しい。