パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

BS1『BSドキュメンタリー』「穀物高騰の衝撃」

2008/2/2初回放送、50分、撮影:坪内俊治/川村玲、コーディネーター:ショーン・ラダン、リサーチャー:小林麗、取材:徳永晶子/有馬嘉男、ディレクター:堀まゆみ/佐藤網人/矢島敦視、制作統括:井上恭介/今村啓一、制作・著作:NHK
スタッフクレジットはリサーチャー以外2007/11/19に放送された『Nスペ』「ファンドマネーが食を操る〜穀物高騰の裏で」と同じ。また、放送前の仮タイトルは「穀物高騰の衝撃〜密着・輸入穀物商社の120日間」。ちなみに放送前の紹介文でも、

食料自給率39パーセント。トウモロコシの9割、大豆の4割近くをアメリカからの輸入に頼る日本。エタノール産業のバブル的拡大、穀物市場へのファンドマネーの流入で、その状況が大きく揺らいでいる。この秋、穀物輸入を手がける商社、豊田通商は、かつて経験したことのない対応を迫られている。トウモロコシの収穫が史上最高と発表されているにもかかわらず、買い付けができない異常事態。この1年で価格は2倍となり、商社の取引先である養鶏や酪農農家の中に、飼料価格高騰に耐えきれず、廃業を余儀なくされるケースが増えている。さらにサブプライムショックで大豆の価格上昇に拍車がかかった。アメリカで急速に進む農の工業化と穀物高騰。そのあおりを受け、根本から見直さざるを得ない状況に追い込まれようとする、輸入穀物を前提にした日本の「農」と「食」。その実態を日本の商社に密着する中でとらえ、より危うさを増す現実を見せていく。

とあったので、『Nスペ』後の豊田通商に密着したスピンオフ企画だと思って油断して期待せず、ぼーっと見ていたら、豊田通商の敏腕おっさんは5分くらい、しかも『Nスペ』の使い回しVTRで登場しただけで、他は全く異なる内容になっていた。そりゃあサブタイトルの「密着・輸入穀物商社の120日間」が削除されるのも当然。しかも駄作にして傑作、問題作だったが、残念ながらメモをとらずに見たのでここで紹介した内容は正確でないとお断りしておく。

ディレクター氏が、市場のバランスを崩す投資ファンドのマネーやバイオエタノール工場の立地アドバイザーや遺伝子組み換え作物が倫理的に嫌いなのは何となく伝わってきた。バイオエタノールをめぐる問題は、食糧問題であると同時にエネルギー問題でもあり、その両方に絡むトウモロコシについてどう見取り図を描けば良いのか前例がないので難しいのも分かるが、私の薄っぺらい歴史認識だと、太平洋側の第2次世界大戦は、ブロック経済化した世界の中でエネルギー政策/食糧政策にミスった日本の経済問題が始まりだったのに、大戦後の知識人は戦争を民主主義とか憲法とか倫理的な問題として総括しちゃったために、経済問題として世界を見渡す反省がなされなかった。ガット(ウルグアイラウンド)から牛肉オレンジ自由化辺りまで、当時私は幼かったからよく分かってはいないが、NHKさんも含めてみんな「自由貿易体制の時代なんだから、農家も痛みを我慢すべき」みたいな感じで、農家の反対運動に冷ややかな視線を送ってはいなかったか。資源小国/加工貿易国の日本は、世界規模での自由貿易体制が生命線であり、そのためにも平和と民主主義を国是にしているのではなかったか。石油エネルギーは100%輸入に頼っても、食糧だって自給率が20%10%切っても大丈夫なように自由貿易体制を支持しているのではなかったか。それが90年代後半以降、2国間による自由貿易協定を結ぶのが流行り出し、世界共通ルールみたいなのをあてにしていた日本はショック。新しい国家戦略を考えなければ。というときに「食料自給率39パーセント、輸入穀物を前提にした日本の食を反省しなければ」みたいな道徳的なまとめで終わられても困る。だから駄作。
一方で、私のような貧乏人の頭の上を飛び交っている巨額のファンドマネーを小粋に取材されても面白くもなんともないわけで、現在の問題が集約された富士山麓の酪農家の苦悩にスポットをあてて、人間を描いたのはドキュメンタリーとして正しい。だから傑作。
ディレクター氏も、誰を批判的に描こうか、誰に同情しようか、何が問題なのか、どこに解決策があるのか、問題が複雑過ぎて見取り図が描けない。となれば、取材した全部、アメリカのトウモロコシ農家も日本の酪農家も投資家も経営コンサルタントもぜーんぶ素材として披露しちゃえ! という混沌が逆に面白さが出していたような気もした。とりあえず、放送前の予告文よりは面白かった。だから問題作。と思ったが、放送内容が変わった理由が案外と編集の最終段階で豊田通商と喧嘩したとか言う下世話な理由だったりしたら、更に面白いのだが。

牛の飼料が4割値上がったのなら、加工製品も4割上乗せすれば良いのにと思う。それでいわゆる“庶民”が「食料品が値上がったら困る!」と文句を言い、政府が「それを望んだのはあなたがたですよ」と返し、そこから国家政策の熟慮が始まる。なのに今は「同業他社が値上げするまではうちも出来ない。それまでは社員の給料削って派遣に代えて何とかしのごう」というチキンレースをやってごまかすから、状況はますます悪化する。
バイオエタノール+ブッシュ+補助金」で検索したら、相変わらずブッシュが叩かれまくりでワロタが、多くが陰謀論っぽくて今一つ信頼出来ない。2/3放送の『BS世界のドキュメンタリー』「米軍幹部が語る・イラク戦争が終わらない理由」(http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/endgame/)では、チームラムズフェルドとチームコンディがそれぞれイラクでの作戦を提案して、基本的に定見を持たないブッシュが決断する様を描いていた。バイオエタノールに関しても、ロビー団体か政策立案チームのどちらにしろ政策を法案化するアイディア元を考えた人がいるのだと思うが、よく分からない。