パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

Adrian Johnstonを激賞する

22歳までは私は「映画なんて『ロードショー』と『スクリーン』で大体の流行りを掴んで、数年後に地上波で放送される吹き替え短縮版をながらで見れば充分じゃん」とうそぶく人間だったが、何故か突然1996年になって単館系映画を観に行ったり、WOWOWで1日3本見たりする人間になった。理由は96年に『バウンド』や『ビューティフルガールズ』『大地と自由』といった傑作がたまたま公開されたからと言いたいが、おそらくそれは初めて観たものに対して過剰な愛情を示すインプリンティングみたいなもので、実際は毎年素晴らしい映画が公開されているのだろう。
それはともかく、自分の中で映画がブームだった頃に観に行って衝撃を受けたのが『日蔭のふたり』(岡山公開は97年秋)だった。ジュードの人生と自分のへたれ人生がすごいイメージシンクロした。入れ込み過ぎて、その後もウィンターボトム/エクルストン/ウィンスレットが関わる映画にはなるべくチェックを入れているくらいだ。その中で音楽に関してはそれほど重要視していなかったが、そんなある日、近所のCD屋でサントラのワゴンセールをやっていた。そこは大量のマニアックな輸入盤サントラを仕入れては、売れないで投げ売りする気の毒な店だったが、そこで偶然この映画のサントラを見つけた。特に欲しかったわけではなかったが「まあ500円だし」と思って捕獲し、聞いたところ、これがまた映画の名場面が甦りつつも、音楽単独で素晴らしかった。ケルト民謡風の音色にポップミュージックのメロディ。クラシックなのに無駄にメロディアスという、自分が好きなスメタナやドヴォジャークと同じ薫りがした。
作曲者はエイドリアン・ジョンストン。切り抜いていた当時の雑誌記事によると、アイルランドのバンドThe Waterboysのメンバーだったらしいが、現在のウィキペディアを読むと、ウォーターボーイズはマイク・スコットという人のワンマンバンドだったらしく、ジョンストンがここでメロディメーカーの才能を発揮していたとは思えない。どんなきっかけでオリジナルスコア書きに転向したのかは知る由もないが、とにかくこの時は「確かに好きだが、これは映画への思い入れから来る過大評価だろう」と考え、それ以上は追求しようと思わなかった。
あれから10年、今年WOWOWで放送されたドラマ『ナターシャの歌に』で再会することになった。見ている最中は誰のスコアかなんて全く意識していなかったのに、頭に残ったメロディを繰り返しているうちに作り手の癖が見えた。この曲はジョンストン作だ、と。『日蔭のふたり』の傑作っぷりはまぐれでも過大評価でもなかったと確信した。
というわけで、ネットでサントラを探した。イギリスで制作されたテレビドラマのサントラなんて日本で発売しているわけもなく、本国アマゾンとアマゾンUKの値段を見比べ、送料を只にすべく、ジョンストンの最新作Becoming Janeも一緒に頼む。『ナターシャの歌に』は同じ監督の別作品と抱合せで一枚なんだけど、傾向の似た作品なのか繋げて聞いても違和感なし。Becoming Janeはサントラだけ聞いてもピンと来ないのは当然といえば当然だが、いかにもオスカー狙いの好作品らしいので、日本で映画が評判になった場合に「俺は先物買いしていたぜ」と自慢するため、今ここに書き残しておく。

Becoming Jane (Score) - O.S.T.

Becoming Jane (Score) - O.S.T.