パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

『ハイビジョン特集』「証言記録 マニラ市街戦〜死者12万 焦土への一ケ月」

2007/8/5初回放送、110分、撮影:須田眞一郎、コーディネーター:篠沢ハーミ/柳原緑、取材:田村綾/神代学、ディレクター:金本麻理子、プロデューサー:池田敏郎、制作統括:大野了/北川恵、共同制作:NHKエンタープライズ、制作・著作:NHK/バサラ
制作・著作に名を連ねる株式会社バサラ(http://www.va-sa-ra.co.jp/index.html)はドキュメンタリー制作会社ではなく、CGやウェブを制作している会社。ということは、ドキュメンタリー内のマニラ市街地図などのような非実写部分はNHKではなく、制作会社が著作権を持っているという解釈でよいのだろうか。

半端にかじったことすらない、全く無知であった分野のドキュメンタリーを理解するのは難しかった。30代の若輩者には内容自体も重かった。見た後で、中野聡・一橋大学教授の論文「戦争の記憶をめぐる日本・フィリピン関係の光と影」(http://www.ne.jp/asahi/stnakano/welcome/wakai1.html)を読み、何故マニラ市街戦が他の戦闘に比べてこれまで日本であまり伝えられてこなかったのかを考える。
“マカピリ”に関して、NHKは2005年8月に『BSドキュメンタリー』「60年目の対話〜フィリピン・裁かれた対日協力者たち」というドキュメンタリーを放送している(自分は未見)。マカピリになった人は米国統治下では貧しかった小作人が多く、抗日ゲリラになった人は米国式教育を受けた比較的裕福な層が多かったらしい。今回のドキュメンタリーでは、そうした“階級的”な事情が省かれ、マカピリは日本軍に取り入って同胞を売ったろくでなしのように描かれていた。NHKが制作・放送したからといって、局内の制作者に共通の歴史認識があるわけでないのは当然だが、2年前に放送した知見をもう少し活かしても良かったのではないかと思った。番組の姿勢として「米国も日本も戦場にいた一般市民にひどい被害をもたらした点では同じくらいクソ」という視点で制作していると感じられたので、なおさらマカピリも抗日ゲリラも2つの占領者のどちらかを選択したかに過ぎなかったように描いても良かったのでは。
番組の中では全く説明していなかったが、中野論文では、英米式の勉強をして育った上流階級/知識人層の米国統治時代に対する郷愁に触れている。もし仮に日本軍がまともな占領統治をしていても、彼らはカストロ後にキューバからマイアミへ脱出した人や、サイゴン陥落後に南ベトナムを脱出した人のように、米国へのシンパシーを隠さず、日本統治をこき下ろしていたのかもしれない。まあ仮定の話をしたところで、実際にはひどい統治をしたのだから、何の言い訳にもならない。

「木曽」の乗組員だった証言者の一人、宮沢宝一郎氏の名で検索したら『今日の話題 第60集 マニラ市街戦・怒濤の如き敵大部隊と血闘、玉砕する将兵一万!/ マニラ陸戦隊元海軍中尉・宮沢宝一郎』という著書が出てきた。派手なタイトルはともかく、証言VTRだと、本人の中でフィリピンで起きた事をうまく消化できているように見えたが、記憶を文章に移して定着させていたからと考えれば、腑に落ちるような気もする。
劉維添氏(台湾出身)の証言による廣枝音右衛門の感動的な話は「戦争中の立派な日本人」エピソードとして以前から知られているようだ。右派が好きそうな「戦場におけるちょっと良い話」を、番組の趣旨が日本/米国/フィリピンの関係性にあるこのドキュメンタリーの中で取り上げたのは、やや不自然な感じもした。16日にBS1で放送される『ハイビジョン特集』より放送時間が10分短い『BS特集』バージョンでは、劉氏の証言部分がカットされると予想。
(8/20追記)16日放送の『BS特集』バージョンにも劉維添×廣枝音右衛門の感動秘話が出てきた。自分の予想は外れた。