パロップのブログ

TVドキュメンタリーの記録は終了しました

デンマーク戦

2006/11/15、トヨタ・アレナ、観衆:6852人(新聞発表)

望遠とかないちゃちなデジカメで撮影した上の写真で分かる通り、選手が間近な1階席で観戦。たまたま隣りに座った人がプラハに住む日本人留学生の方だった。その人の話によると、1階席100コルナ、2階席250コルナのどちらかを、チケット窓口で選ばせてもらえたという。自分は「1枚」と言ったら、「100コルナ」と返されたというのに。
席の前でチェコが試合前のアップしたので、肉眼で顔/背丈/走り方から大体のスタメンを予想する。ヤンクロやロシツキー辺りがいないのは分かったが、目の前で駆け上がってクロスを上げる左SBの金髪短髪兄ちゃんが誰か分からない。隣の方に聞くと、場内放送で「今日は誰々が出ません」とアナウンスしているらしい。「誰が出場予定者か=レギュラー扱いか」みたいなことを公的に確定してよいのかと疑問に思ったが、おそらく配布したパンフに載っているけど出られない、招集してプラハまで来たけど出られない選手の説明だったのだろう。入場口では、きちんと製本されたパンフと、当日に地元スポーツ紙が刷った号外新聞をもらった。号外紙の1面に両国のスタメン予想も掲載されており、試合前には電光掲示板にスタメンも流れたが、グリゲラ/イラーネク/ウイファルシ辺りは誰がどこのポジションをするのか予想が難しい。

で、試合開始。チェコの布陣はオーソドックスな4-2-2-2。見慣れない金髪短髪兄ちゃんはグリゲラだった。以前はもっと黒髪長髪優男系だった記憶があったのに。
………15Baros……7Vlcek………
…20Plasil……………14Jarolim…
………3Polak……4Galasek………
…2Grygera……………6Ujfalusi…
……13Jiranek…22Rozehnal……
……………1Mar.Cech……………
やるサッカーはいつものチェコ代表と同じ。ボールを奪ったらFWに当てる縦パスを出すと同時に中盤の4〜5人が柔軟に動き出す。しかし、この試合はサッパリ組み立てることが出来ないで、逆にカウンターを食らいまくる。あの美しいチェコサッカーは運動量とテクニックの両方を備えた選手が集結しないと出来ないことがよく分かった。ヤロリームはFKを蹴る以外に全く存在感を出せず、ガラーセクは何でもないパスを目の前の敵に渡し、後ろから追い掛けてタックルをかます(赤紙でもおかしくないが黄紙も出なかった)。ポラークとガラーセクを並べるのも疑問だったが、少なくともこの試合では中盤の底から何のリズムも生まれていなかった。後付けだけど、ブンデス組は全体的に体が重そうというか、次のワールドカップに最も遠い年の11月にある親善試合にやる気を出すのは難しかったのだろうと、擁護してみる。
一方、デンマークの布陣は、
………………9Bendtner……………
……10Dani.Jensen7Kristiansen……
11Lovenkrands……………8Kamper
………………2Poulsen………………
5Nic.Jensen…………………6Helveg
………4Agger……3Per.Nielsen……
………………1Sorensen………………
事前のスポーツ紙でバロシュとのアストンビラ対決を煽られていたソーレンセンとヘルヴェグ(両国とも右SBがキャプテンというのも珍しい気がする)くらいしか知らないメンバーだったが、これがなかなかスピーディで良いサッカーを展開してくれた。10番と7番は攻撃的MFというよりは、労働者型のセントラルMF。自陣に入ってきたボールは2番が全部絡め取り、それを素早く両翼に展開する。ポウルセンをよく知らなかったが、後でセビージャの躍進を支えていると聞いて納得の出来だった。そしてサイドの11番と8番がとにかく縦に速い。他の選手もパンフをみると、プレミアやブンデスでプレーしている選手ばかりだった。28分の先制点はローベンクランズの得点になっているが、席から遠い方のゴールだったからよく見えなかった。確か逆サイドの裏を突破されてデンマークの数的有利になり、ゴール前で振り回された挙げ句のゴールだったような記憶がある。それから1トップの9番がひょろ長いんだけど、ポストプレーだけではなくて強引にシュートを打ちたがるタイプで面白かった。自分がフリーなのに上がってきた両翼がシュート打っちゃうとすごいジェスチャーで要求するし、パンフを見ると1988年生まれで代表の中ではダントツに年下なのに気持ちが強そうで楽しみ。デンマークは楽しみな材料がいっぱいだった。

ひどかった前半を受けてチェコはハーフタイムに3人入れ替える。ヴルチェク→ラファタはFW同士、ガラーセク→ハインツ、ヤロリーム→シールル。意味なし2センターハーフからトップ下にハインツを入れ、シールルを左MF、プラシールを右に移動し、中盤ダイヤモンド気味に変更。ひどかったサイドのケアもあったのだろう。
ヴルチェクはスラヴィアの選手で、パンフにも号外紙にも名前が載っていないから緊急招集かもしれない。前の週末に行われた国内リーグでも点を取ってたし、スポーツ新聞も推していた。自分の席の後ろはスラヴィアのサポーターらしく、ヴルチェクがボールを触ったり相手DFと競り合う度に「ヴルチェク、$%&@*?#!」と半応援・半笑いで叫んでいた。約7000人の観衆のうち「ヴルチェクが出るなら行くか」というスラヴィアサポが1000人位はいると思われるほど人気者のようだった。しかし彼はずんぐりむっくりで1トップを張るタイプではなく、バロシュとの相性は良くなかった。前線から泥臭く律儀に追い回すのだけど徒労に終わり、足元にボールが入ると下手なトラップで奪われ、端から見てても「前半で交替だな」と思った。前半半ば辺りに後ろのスラヴィアサポが長台詞を言ったので、隣の方に意味を聞いたら「ヴルチェク、お前はスラヴィアでプレーしたくないのかよ!」だった。あまりにショボいのでスラヴィアに戻って来なくて構わないという叱咤だろうか。
ハインツにボールを入ると少し変化は出せるようになったけど、ハインツはゲームを作るよりもすぐにFWヘラストパスを送りたがりなので、単発の攻めになる。一方で、デンマークはテストの意味が増したのか5分間隔で新しい選手を投入、これがまた伸び伸びと力を発揮し、カウンターのクオリティが落ちない。
後半チェコは自分から見て向こう側に攻めていたのだが、ヴルチェクと代わったラファタも遠目だとずんぐりむっくり系で、あまり見どころはなかった。誰が出ても五十歩百歩なのが実際だろうが、個人的にはホテルのテレビで見たボレスラフのクリッチという選手が期待出来そうだった。これまた上背のないずんぐりなんだけど、相手DFの体重移動をみながら逆へ逆へスルスルとドリブルで抜く場面があって、雰囲気がある選手だと思った。それとスパルタのマツショヴィチが推せる。まあ所詮は国内レベルなのかも知れないが。
72分、グリゲラに代えてコヴァーチを投入。最終ラインではなく中盤に入れ、ポラークをやや前に押し出す。中央を厚くしてポゼッションを増やし、より攻撃的に出るつもりだったのだろうが、後ろ盾を無くして左WB気味になったシールルと、逆にポジションを上げて右WB気味になったウイファルシの裏を突かれて、ズタズタにされる。
グリゲラは単体でみると、やはりモノが違うというか、それこそ体格的なところからキック力やスピードなど能力から、ポウルセンとともに世界トップレベルを一番匂わせる選手だった。
シールルは最初ベルギーでプレーしているシムルと勘違いしていたが、パンフを見るとペテルブルクでプレーしている左サイドMFの選手。これまた何の輝きもなく、唯一の見どころはデンマークの選手に突破されて後ろからユニフォームを引っ張ると、デンマークの選手が腕を振って走るフォームをしながらその場で足踏みをするというドリフのコントみたいな演技をして、スタジアム中からゆる〜い笑いが起きていた。二度と彼も招集されそうにない。
81分には、イラーネクに代えてザーポトチニーが登場。イラーネクは相手の1トップをマーク、ロゼフナルがカバーという関係。中盤にプレッシャーがかからないと、最終ラインを切り割かれるのはワールドカップ以前からお馴染みの風景なので驚きもない。ザーポトチニーも同じポジションで同じようにズタズタにされたが、これは選手がどうこうでもないだろう。
ロゼフナルは最終ラインから丁寧に繋ぐことに絶対の自信を持っているようで、そこに不安は全くなかったのだけれど、2列目から入ってくる敵とサイドから上がってくるクロスボールを同時に見るのが下手だと思った。パリSGでは中盤の底をやっているそうだが、そっちの方が向いているかもしれない。余談だが、隣の方に「ロゼーナルとかロゼナルに聞こえるんだけど」と尋ねたら「普通に“h”も発音しているよ」との回答をいただいた。ロゼフナルで良いらしい。
そんなこんなでサイドを2〜3度割られ、GKとの決定的な1対1を枠外に外してくれたお陰で失点はしないものの(デンマークのFWは「俺によこせ」とカリカリしていた)、4度目辺りでは会場からブーイングも出た。デンマークが攻める側のゴール裏がチェコサポだから、何度も目の前の防御網にシュートを打ち込まれれば腹も立ってくるのも仕方ない。そしてロスタイム付近、また1対1の場面を作られ、今度はGKが相手を体で止めてPK(GKには黄紙のみ)。「今日は散々な試合だったぜ」というスタジアムの雰囲気の中、“もう一人のチェフ”ことマレク・チェフが見事にセーブ。さらにロスタイム、確かウイファルシがゴール前に放り込んだ山なりボールをバロシュがゴール。遠かったからよく分からなかったが確かヘッド。これも本気の1点差ゲームだったら、敵DFもドン引きで跳ね返すと思うのだが、何故か中途半端にラインを上げており、オフサイド崩れみたいな形でバロシュだけ抜け出し、飛び出したGKをうまく避けてゴールに向かって当てるだけ。デンマークも「親善試合でオフサイドの抗議をしても仕方ないし、っていうか俺等は完全に店しまいモードだったんだけど」という感じでユルユルとタイムアップ。引き分けた分だけ余計にチェコには何も残らない試合だった。「ホームだし負けられんし、そもそも勝負事は全て負けたくない」というタイプの選手と「11月に代表の試合なんかやりたくねえ」という選手が混ざっていた感がありあり。一方、デンマークの今後は本当に楽しみ。
最後にバロシュの印象。目の前でプレーを見ると、本気で突破を図っている時とファールを貰おうとしている時の違いがよく分かる。本気の時は骨を削るような音をさせてヘルヴェグでも吹っ飛ばしていたけど、抜けそうもないと思った時は当たられる前からスピード落として相手とかすっただけで転んでいる。で、ノーホイッスルだと両手を大きく広げて抗議するのもいつも通り。素人でも分かるのだから、プロの審判もそうそうは騙されないだろう。バロシュのダイブ癖はヨーロッパ中の審判に知られているだろうし、そろそろ意識を改善しないと一流半で終わってしまう。それからバロシュはコレルの胸トラップを鮮やかにボレーした印象が強いかもしれないが、2003年のオランダ戦だったか、途中から出てきてトドメのゴールを決めたことがあったように、本来はひたすら浅いラインの裏を破るのが得意な選手。この試合で組んだヴルチェクやラファタはいうに及ばず、恐らくはコレルやロクヴェンツのような長身FWと組んでも持ち味を発揮出来るかはわからない。ベストの使い方はチェコがリードしている展開で投入されることだろうが、では逆に1点リードされて相手が引いて逃げ切りを図る場面ではどうするか。バロシュを入れる代わりに長身2トップにした方が理に適っていると思うが、それで負けたらメディアから「リードされているのにバロシュをベンチに置いたままとは何事か、ボケ監督」と言って叩かれるだろう。何とも使いにくい才能。

試合の感想を「数日後に書く」と書いたまま数カ月放置してしまった。流石に次の親善試合が行われる前に消化しておかなければ情報としてまずいだろうということで、取り急ぎ乱筆乱文のほど御容赦を。あの時は「もうガラーセクは代表引退だろう」と思ったが、今回も招集されている。先週の試合ではニュルンベルクバイエルンに勝ったみたいだし、再び好調になってきているのならば期待したい。