パロップのブログ

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万引き町議に辞職勧告ってどうよ(長文注意)

先日、隣町の町議が万引きの容疑で書類送検され、議会から辞職勧告を受けたのに辞職しないのでもめている。報道を時系列に沿ってみていくと、以下の通り。
9月11日に捕まった当初は、

3日投開票の早島町議選で初当選した無職男性(69)が、岡山市の書店で万引したとして岡山東署に窃盗容疑で事情を聴かれていたことが12日、分かった。男性は「大変申し訳ないことをした」と話しており、同署は近く同容疑で書類送検する方針。
関係者によると、男性は11日午後零時40分ごろ、岡山市表町の書店で、拡大レンズと同レンズ付きしおり、スタンプ台の3点(計4410円相当)を紙袋に入れ、万引したとされる。店外に出たところを保安員に呼び止められ、岡山東署員に引き渡された。
紙袋には当時、ほかに同店で購入済みのアドレス帳などが入っていたという。
男性は、任期満了に伴う8月29日告示の早島町議選(定数10)に無所属で出馬し、初当選した。任期は14日からだった。
取材に男性は「万引するつもりはなかったが、めったに行かない書店のため出口と思わずに迷って外に出てしまった。辞職する意思を持っているが、支持者や町議会の意向を尊重したい」としている。
町選管などによると、任期前の「当選辞退」は公選法の規定がなく、同町の場合、議員の任期が始まれば直後に辞職しても1カ月分の報酬(約23万円)が支給されるという。
https://www.sanyo.oni.co.jp/sanyonews/2006/09/13/v2006091309123135006.html

9月3日の都窪郡早島町議選で初当選した男性(69)が岡山市内の書店で文房具を万引きし、岡山東署に窃盗容疑で取り調べを受けていたことが12日、分かった。
この男性は11日午後0時半ごろ、書店でスタンプ台や拡大レンズといった文房具を紙袋に入れ、店の外に出たところを保安員に見つかり、駆け付けた同署員に窃盗容疑で取り調べを受けた。男性は「店内を回っているうちに外に出てしまった。うっかりしてのことで、約4400円の代金は支払ったが言い逃れはできない」と事実関係を認めている。
男性は無所属新人として、任期満了に伴う同選挙に立候補。409票を獲得し、初当選を果たした。男性は「多くの人に支えられ当選したのに、大変迷惑を掛けた」と陳謝したが、進退については「議会運営委員会で判断してもらう」などとし明言は避けた。
http://www.okanichi.co.jp/20060913131210.html

だったのが、14日の全員協議会では、

今月3日の早島町議選で初当選した男性が、文具を万引したとして岡山東署から窃盗容疑で書類送検される方針となっている問題で、男性(69)は町議に就任した14日、当初示していた辞意を撤回。「辞職勧告が出ても議員を続ける」と表明した。
この町議は、同日開かれた全員協議会で「支持者に『絶対に辞めてはいかん』『議員活動を通じて責任を取って』と応援された。議会から辞職勧告が出ても議員を続ける。反対の声も承知の上だ」と表明。「当日は普段服用する薬を飲んでおらず頭がふらふらし、たまたま外に出た」と弁明したという。
また、議員報酬についても「制度上受け取らざる得ない」としている。
全員協議会は「警察に事実関係確認後、対応を話し合う」としたが、一部議員からは「すぐ辞めるべきだ」との声も上がっている。
http://www.sankei.co.jp/local/okayama/060915/oky002.htm

早島町議会は14日、町議選(3日)後初の全員協議会を開いた。岡山市の書店で今月11日、文具を万引きしたとして岡山東署に事情聴取された男性町議(69)は「辞職届を出すつもりはない」と述べ、辞意を否定した。
同町役場の協議会室に現れた町議は、報道陣に「書きたいなら書け、あほ」などと暴言を吐きながら入室。全協では別の町議が事実確認を求めたが、「肝臓が悪く、意識もうろうとしてそうなった」とだけ釈明した。辞職については「抗議電話もなく、支持者から励ましの言葉をもらった。議員としての責務を果たす中で町民の理解を得たい」と話したという。
他の町議からは「抗議がないのは、報道などで辞職する意向を示していたから。撤回すれば抗議の声も大きくなる。すぐに辞職してほしい」などと求める声が出たが、「まず事実解明を」との意見もあったという。
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/okayama/news/20060915ddlk33040529000c.html

となり、更に20日の早島町議会では、

3日の町議選後初の早島町議会(定数10)が20日開会し、万引き容疑で岡山東署から事情聴取を受けた林顕町議(69)の辞職勧告決議案を本人と議長を除く全会一致で可決した。しかし、林町議は「辞めない」と繰り返し、決議を受け入れない意志を改めて示した。
決議案は議長に選出された太田尅(とも)子氏(公明)あてに、林氏を除く全議員8人が連名で提出。「議員としての資質を疑う。政治的、道義的責任は免れず、町議会にとどまることは町民感情からして許されない」などとしたが、林町議は決議前に議会で「『議員を続けることで償ってほしい』と支援者から言われた」などと弁明した。可決後も報道陣に「辞めるのは簡単だが、私に託された町議としての仕事があり、辞める訳にはいかない」などと話した。
太田議長は「議会の歴史と品位を汚すもの。辞めないという言動には怒りを覚えるし、議会にとどまり続けることを町民に申し訳なく思う。辞職を求めるのは(林氏を除く)議員の一致した意志で、今後も議会として辞職を迫り続ける」と話した。
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/okayama/archive/news/2006/09/21/20060921ddlk33040543000c.html

これに対し、林議員は「町民、議会に多大な迷惑をかけたが、支持者からは議員として償いをせよという声が多く、最後の決断は自分で行う」と議場で弁明。取材に対しても「絶対辞めない」と繰り返した。
この日は10人以上の町民が傍聴。町民の男性(79)は「万引き議員が居座るとは早島町の恥だ」と怒っていた。
http://mytown.asahi.com/okayama/news.php?k_id=34000000609210004

採決前、林議員は議場で「議会に対し申し訳ないが、支援者から議員として償えという声が多かった」と弁明。ほかの議員から「やめろ」という声も上がったが、本人は取材に対しても「多くの支援者からやめないでほしいという声があった。道義的な責任はあるだろうが、約束を果たすためにもやめることはできない」と述べ、議員継続を表明した。
http://www.okanichi.co.jp/20060921124025.html

これに対して林議員は「今回の行為で議会と町民に迷惑をかけたことは申し訳ない。議員として償いをしてくれという声が多く、最後は自分で決断したい」と弁明した。
可決後、林議員は「針のむしろになっても辞めるつもりはない」と、あらためて辞職する意思がないことを強調。
http://www.sanyo.oni.co.jp/sanyonews/2006/09/21/2006092109151613007.html

である。69歳町議の発言だけを抜き出すと、

「大変申し訳ないことをした」「万引するつもりはなかったが、めったに行かない書店のため出口と思わずに迷って外に出てしまった。辞職する意思を持っているが、支持者や町議会の意向を尊重したい」「店内を回っているうちに外に出てしまった。うっかりしてのことで、約4400円の代金は支払ったが言い逃れはできない」「多くの人に支えられ当選したのに、大変迷惑を掛けた」「議会運営委員会で判断してもらう」

「辞職勧告が出ても議員を続ける」「支持者に『絶対に辞めてはいかん』『議員活動を通じて責任を取って』と応援された。議会から辞職勧告が出ても議員を続ける。反対の声も承知の上だ」「当日は普段服用する薬を飲んでおらず頭がふらふらし、たまたま外に出た」「肝臓が悪く、意識もうろうとしてそうなった」「抗議電話もなく、支持者から励ましの言葉をもらった。議員としての責務を果たす中で町民の理解を得たい」

「『議員を続けることで償ってほしい』と支援者から言われた」「辞めるのは簡単だが、私に託された町議としての仕事があり、辞める訳にはいかない」「町民、議会に多大な迷惑をかけたが、支持者からは議員として償いをせよという声が多く、最後の決断は自分で行う」「議会に対し申し訳ないが、支援者から議員として償えという声が多かった」「多くの支援者からやめないでほしいという声があった。道義的な責任はあるだろうが、約束を果たすためにもやめることはできない」「今回の行為で議会と町民に迷惑をかけたことは申し訳ない。議員として償いをしてくれという声が多く、最後は自分で決断したい」「針のむしろになっても辞めるつもりはない」

ということで、悪意をもって憶測すれば、手口からして常習犯とみられる万引き町議が捕まった。最初は「うっかり店外に出ただけ」と言い訳していたのに、やがて「肝臓の薬を飲んで意識が朦朧としていた」と加え、更に脳内支持者を楯に月給23万円を貰い続けようとしている。それに他の町議が「町の恥だ」と怒っている。どこの田舎にもよくある話に思える。
だが、ちょっと待って欲しい。日頃、ニュースクリッピングなんかやらない自分がこうして書いているのには理由がある。この69歳町議だが、4年前の町議選にも出馬して落選している。今、自分が働いている職場の営業おっさんが、その時にこの69歳町議と会ったということで話を聞くと、その印象は「偏屈なじじい」。かなり人を不快にさせる態度をとったらしい。上記の毎日新聞記事にもあるが、

同町役場の協議会室に現れた町議は、報道陣に「書きたいなら書け、あほ」などと暴言を吐きながら入室。

こんな態度の描写は、最近の新聞は書かない。特に地方のベタ記事でこんな「容疑者はカツ丼をぺろりと平らげた」的な悪意のある表現はなかなかお目にかかれない。記者もよほど取材していて69歳町議の態度を腹に据えかねたのだろう。議会が辞職勧告を出すのも迅速すぎるくらいの早さだった。議会初日に全会一致で辞職勧告を決議。
要するに、69歳町議は町の嫌われ者だったのだろう。開票直後の「おいおい、あんなクソじじいを町議に当選させたらまずいだろう」という空気の中で、都合良く万引きで取り調べというニュース。こりゃあ辞めさせるチャンス!といったところか。
だが、それで本当に良いのだろうか。町議とは有権者から委任を受けたのであり、言い替えれば独立自営業者である。他の町議は職場が同じとはいえ、同じ組織の一員というわけではないし、「町の恥」とかいっても連帯責任があるわけでもない。それなのに「議会の品位を汚す」という理由で、有罪判決も出ていない町議に「今後も議会として辞職を迫り続ける」のが本当に正しいのか。
今回の選挙で69歳町議は409票を得て最下位で当選した(当日有権者数は9645人)。「『議員を続けることで償ってほしい』と支援者から言われた」という69歳町議の言い逃れに対し、409人以上が議員辞職を求める署名を集めたところで、(実際にやったら9000人近く集まりそうな気はするけれど)それが投票した409人の反旗だと証明出来ないのが、秘密選挙というものである。
報道にもある通り、同決議に法的拘束力はない。拘束力がないからこそ、それは政治家としての態度・信念が問われるものである。本来、どんなロクデナシであろうと、身分が保障されるのが民主主義の下で選ばれた議員である。「素行が悪くて言動が下品で嫌われ者だから」が辞職を勧告する理由とされてよいものだろうか。
今回の辞職勧告決議に賛成した町議8名の中には共産党議員も1名いるが、こういう時こそ「万引きしたロクデナシの偏屈じじいだからと言って、簡単に議員の身分を剥奪するような勧告を議会が出してよいものだろうか。これこそまさに憲法をないがしろにした小泉政治による格差社会の弊害である。そもそも万引きによる取り調べそのものが国策捜査の疑いさえある」くらいの声明を発表すべきではないだろうか。岡山弁護士会だとか人権擁護団体も何を傍観しているのだろうか。「町議会の横暴と人権侵害は憲法に対する挑戦だ」と声明を発するべきではなかろうか。
我々有権者も考えなければならない。この頃は、マニフェストだの政策重視だのネットで発信だのが叫ばれ、田舎の地縁・血縁選挙は馬鹿にされる傾向があるけれど、じゃあ立候補者のホームページをみて、書いてある政策を読んで、本人に会ったことがないまま投票して、その本人がこんな万引き野郎だったら、どんな道義的責任があるだろうか(まあ可能性としては「性格悪くても政策一流ならば投票する」という有権者もいるだろうが、今回の場合はそれに当たらないと想像される)。「そうは言っても、日々の暮らしに忙しい一般人が全ての立候補者と会う機会を持てるはずもないし、基本的には上辺だけのでまかせを放言した立候補者の方が悪いじゃん」と言われれば、確かにそうかもしれない。有権者は4年後に落選させるくらいしか出来ないのかもしれない。そう考えていくと「自分の知っている人が推薦するから」という地縁・血縁政治、「会ったことはないけど○○先生の息子さんなら、軽はずみなことはしないはず」という2世議員の存在を含めた政党政治も、見直されるべきではなかろうか。

ここまでは新聞報道を読んで考えていた予定稿なんだけど、検索して調べているうちに衝撃の事実が判明した。なんと69歳町議は民主党推薦候補だった。それで謎もとけた。4年前の前回町議選で、69歳町議は「65歳。運送業、元PTA役員、元消防分団副団長」のプロフィールで、定数14のところ17人中15位で落選。有権者数9472人のところ得票数258票。それが今回「69歳会社員」(あれ、出馬プロフィールをみたら会社員になっているけど、報道だと無職だし、どっちなんだ)で、定数10のところ12人中10位、409票も集めたからおかしいと思ったら、民主党の推薦があったのか。それならば、新興住宅地に引っ越してきた人達が本人の人柄を知らずに、政党の推薦を信じて投票しても仕方がない。
民主党江田五月参議院議員http://www.eda-jp.com/)、柚木道義衆議院議員http://www.yuzu.jp/)、時尾博幸倉敷市議(http://www.geocities.jp/tokiodpj/)、いずれのサイトをみても、町議選の期間中は民主党推薦4候補の応援に出掛けたことが書かれているし、9月3-4日付には推薦3候補の当選報告が書かれている。電話まで掛けて応援している。

今日は倉敷市のお隣の早島町の町議会議員選挙の投開票日。
民主党推薦候補の投票の追い出し電話を掛ける。
早島町議選(民主党推薦候補)
当選 日笠正人822票、原光俊517票、林顕409票
落選 川北隆之295票
http://blog.livedoor.jp/tokiohiroyuki/archives/51130536.html

夜は早島町議会議員選挙の開票結果を民主党推薦候補の事務所にて支援者の皆さんとともに待ちました。結果、推薦候補4人のうち3名が当選を果しました。新人ながら見事にトップ当選を果された日笠正人さんに、原光俊さん、林顕さんが当選され、川北隆之さんが一歩及ばず落選。
http://www.yuzu.jp/daily/2006/9/index2.html

今日が告示の早島町議選の応援のため、民主党推薦候補の選挙事務所を歴訪しました。定数10名のところに12名が立候補し、その内の4名を推薦しました。現職で3期目が2名、新人が2名です。ちょうど昼休みで、2名については候補者本人にお会いできました。
http://www.eda-jp.com/katudo/2006/8/29.html

それなのに、何故「民主党推薦の町議が万引きで取り調べを受けました」「民主党推薦の町議が議会から辞職勧告を受けました」「民主党推薦の町議が書類送検されました」という報告はないのか? そりゃあ、推薦依頼者を碌に吟味もせず「地方議員が1人でも増えれば儲けもの」というつもりで推薦の紙切れを発行しただけかもしれない。「ちょっと推薦しただけで、党員でもない人間の面倒までいちいちみてられるか」とおっしゃるかもしれないが、その推薦状のお陰で69歳町議は当選したのではないかという上記の疑いがあるからには、真摯に答えるべきではなかろうか。
「まだ事件の全貌が明らかになっていないので静観しているだけで、逃げているわけではない」とおっしゃるかもしれないが、せめて「事実関係ははっきりしていないが、世間をお騒がせして申し訳ない。我々からも辞職するように責任をもって説得する」という方向なのか、「万引きで書類送検されたとはいえ、推定無罪の原則もある。議会の辞職勧告は民主主義の根幹を揺るがす暴挙だ」という方向なのか、党がどちらを向いているかくらいは報告があってしかるべきではなかろうか。
そもそも今回のエントリーでは、共産党や人権擁護団体を皮肉ろうと思っただけで、民主党には何の関心もなかったのに、しらを切っているので仕方なく疑問を呈することになって残念。